次なるビットコイン・トレジャリー企業となるのは、米国のテック大手や老舗企業ではないかもしれない。少人数のチームで運営され、独自開発のCMS(コンテンツ管理システム)を有し、お金の未来について明確なテーゼを掲げる、設立15年の英国ウェブサービス企業の可能性がある。
その企業は、2009年にアンドリュー・ウェブリー氏によって創業されたThe Smarter Web Companyだ。同社は、1907年創業の企業を買収するリバース・テイクオーバー(※1)によって、2025年4月にAQUIS証券取引所(※2)への上場を計画している。しかし、この上場で注目すべきは取引手法ではない。その背後にある資本戦略こそ、真に重要な意味をもっているのだ。
バランスシートに組み込まれたビットコイン
2023年以降、The Smarter Web Companyはビットコインによる支払いを受け付けてきた。そして今回、株式上場の準備を進めるにあたり、現金と並んでビットコインを保有することを盛り込んだ正式な「デジタル資産財務方針」の策定に着手している。
同社の経営陣は、ビットコインを投機的な手段としてではなく、意図的に保有する準備資産と位置付けている。彼らの言葉を借りれば、それはインフレーションに対するヘッジであり、長期的な価値保存に向けた先見的な仕組みである。
同社は上場した後、オーガニックな成長(既存事業の拡大や新サービス立ち上げなどによる自然な成長)と戦略的な買収の双方を追求してゆく方針だが、そのなかでビットコインは長期的な資本保存手段のひとつとして機能する予定だ。この動きは、ストラテジー(旧マイクロストラテジー)社やメタプラネット社といった先行導入組の戦略を想起させる。
ビットコイン・ネイティブな資本による支援
The Smarter Web Companyの計画は、すでに理念を共有する投資家たちの注目を集めている。2025年1月、同社はIPO(新規株式公開)前の資金調達ラウンドを完了し、100万ポンド超を調達した。このラウンドを主導したのは、ビットコインに特化した投資運用会社であり、ヘッジファンド「210k Capital, LP」を運営するUTXO Managementだ。
さらに上場戦略の一環として、200万ポンドを超える追加資金調達が進行中である。
この資金は単なる受動的な投資ではない。UTXO Managementや「ミッションを共有する支援者」たちは新しいタイプの上場企業の創出を目指している。つまり、ビットコインとの長期的な整合性と規律ある財務運営を最初から組み込んだ企業だ。
なぜ、本件は企業経営者にとって重要なのか?
The Smarter Web Companyが上場すれば、ビットコイン・トレジャリー戦略を初日から導入する英国上場企業の先駆けのひとつとなる。それだけでもすでに注目に値する。これまでビットコインを保有してきた上場企業の多くは、マクロ経済環境の変化に応じた方針転換としてビットコインを導入してきた。だが、The Smarter Web Companyはまったく異なる道を歩んでいる。株式市場に登場する前から、ビットコインを企業財務のDNAに組み込んでいるのだ。
これは、一企業の信念にとどまらない、より大きな潮流を示している。つまりビットコイン・トレジャリーモデルが、アーリーアダプター(先行導入企業)にとどまらず、より多くの企業にとって現実的かつ戦略的に有効な選択肢になりつつあるということだ。ビットコインを企業戦略に採り入れるのに、数十億ドル規模のバランスシートは必要ない。必要なのは、理念の一致、将来を見据えたビジョン、資本の保存と長期的価値を優先する枠組みである。
中堅企業や成長段階にある企業にとって、ビットコインはますます理にかなった選択肢となっている。持続的なインフレーション、法定通貨の価値下落、余剰資金をただ保有することによる機会損失……。こうした財務的プレッシャーは大企業だけでなく、むしろ競争熾烈な市場で活動する中小企業にこそ深刻にのしかかっている。
それがサブスクリプション型の継続収益であれ、将来的なM&Aであれ、資本効率はもはや経営上の必須事項である。ビットコインは従来の財務資産では実現できない独自の手段を提供する。それは持ち運び可能で、国家に依存せず、希薄化に耐え、長期的視野に最適化されている。今日得た価値を購買力を失うことなく、明日以降に活用したいと考える企業にとって、ビットコインは単なるヘッジではなく「新たな企業財務の基準」たりえる存在なのだ。
今後の展望
上場後に始まる企業情報開示において、The Smarter Web Companyは、コアビジネスの業績と並行して重要なトレジャリー関連の更新情報も含めることを約束している。この高い透明性により、投資家やアナリストはデジタル資産が企業資本の運用においてどのような役割を果たしているのかを把握できるようになる。
ビットコインに根ざした資本形成、トレジャリー戦略、そして実務への導入は、もはやストラテジーやメタプラネットのような話題性の高い企業だけに限られたものではない。この手法は拡がりつつあり、The Smarter Web Companyのような企業が最前線に立ち、「財務のイノベーションがパフォーマンスのシグナルであり、奇を衒った演出ではない」という新たな時代を切り拓こうとしている。
企業経営者にとって、この潮流が示す教訓は明確である。行動を阻んでいた障壁はもはや崩れつつある。残された問いは、「いつ踏み出すか」 というタイミングだけだ。
(※1)リバース・テイクオーバー:未上場企業が上場企業を買収することで、間接的に株式市場に上場する手法。
(※2)AQUIS証券取引所:英国に拠点を置く中小企業向け証券取引所。
免責事項:本記事は「Bitcoin For Corporations」のために執筆されたものです。あくまで情報提供を目的としており、有価証券の取得、購入、または申込みの勧誘ではありません。なお、The Smarter Web CompanyにはBTC Inc.の子会社であるUTXO Managementが出資していることを完全な情報開示のために付記しておきます。