Home記事「国民の51%がCBDC(デジタル・シェケル)導入に関心あり」イスラエルの新たな調査は本当なのか?

「国民の51%がCBDC(デジタル・シェケル)導入に関心あり」イスラエルの新たな調査は本当なのか?

イスラエル国民は「デジタル・シェケル」が何であるかを本当に理解し、それを進んで受け入れるつもりなのか?

4月1日、テルアビブにあるKPMGのオフィスで「CBDC ILフォーラム」の会合が開かれ、数十名の聴衆が集まった。出席者は、イスラエル銀行が「ロシンク」研究所を通じて実施した調査結果に関して、イスラエル銀行、学術界、KPMG代表者による発表に耳を傾けた。この調査には約1000人が参加しており、結果はイスラエル銀行の公式ウェブサイトで公開されている。本記事では、この会合の主なポイントを振り返り、イスラエル銀行が公開した調査結果に対するコメント、さらに筆者がフォーラムの最後に出席者へ伝えた内容を紹介する。

「CBDC ILフォーラム」の会合で配布されたパンフレット

調査「デジタル・シェケル導入へ向けたイスラエル国民の意欲」

イスラエル銀行の「デジタル・シェケル」チームに所属するニール・ヤアコビ(Nir Yaacobi)博士は、調査対象者は無作為に選ばれており、すべての人口層を代表していると述べた。「研究機関は調査参加者と連携しており、彼らには参加報酬が支払われている」とのこと。なお、支払われた金額については明かされなかった。調査結果の共著者であるルース・プラト=シナー(Ruth Plato-Shinar)教授は、調査票はデジタル形式だったと説明。彼女は、非常にベーシックな携帯電話を持つ人でも参加可能であったとしながらも、まったくデジタル環境にアクセスできない人々はおそらく参加しておらず、デジタル・シェケルが何であるかも理解していないだろうと認めた。

調査文書に浮かび上がる、いくつかの方法論的問題点

  1. サンプリング手法:オンラインパネルが使用されたため、調査対象者はすでにデジタル調査プラットフォームに登録している人々であり、テクノロジーに精通した層に偏っている可能性がある。これにより、デジタル通貨に対する意識が実態よりも前向きに歪められているおそれがある。
  2. サンプルの代表性:無作為抽出とはいえ、特にアラブ系市民をはじめとする一部のグループが過小評価されていた。そのため、特定の参加者の回答を2倍に重みづけする「リウェイティング」が採用されたが、これによりデータの信頼性や自然さが損なわれた可能性がある。
  3. リスク:デジタル志向の参加者が多かったこともあり、プライバシーの喪失、政府による介入強化、現金経済への影響などのリスクについては、適切に反映されていない可能性がある。
  4. 参加者の離脱:第1回目と第2回目の調査の間に115人の参加者が離脱している。これはテーマに強い関心をもつ者だけが調査に残ったことを示しており、選択バイアスが生じている可能性がある。

サンプルの代表性の確保に向けた努力はなされたものの、上記の方法論上の限界により、調査結果の妥当性には注意が必要である。

デジタル・シェケルのリスク開示の回避

フォーラムの終盤、調査参加者と「CBDC ILフォーラム」出席者に提示された情報が部分的であり、かつデジタル・シェケルに肯定的なものであったことに、私は批判的な意見を述べた。一般市民にはこのシステムに内在するリスクや制限について十分に知らされておらず、私はこれまで多くの基調講演や記事、ポッドキャストにおいて、そうした点を詳しく取り上げてきた。

以下のビデオでは、調査参加者に提示されたデジタル・シェケルの説明が不十分だったことがわかる。「CBDC ILフォーラム」でプラト=シナー教授が読み上げた通り、デジタル・シェケルとそのシステムに関する説明は利点に偏った内容だった。

さらに、本調査はエンドユーザーが直面しうる潜在的リスクを包括的に取り扱っていない。例えば、国家による金融行動の統制、プライバシーの喪失、資産の差押え、監視ツールとしての通貨利用、規制による資金アクセスの制限などが挙げられる。こうしたリスクが強調されていない点は、政府の介入やプライバシー侵害を懸念する人々にとって特に問題であるだけでなく、潜在的リスクとその影響に気付いていない人々にとっても重大である。

本調査では、以下の点には触れられている。

  • 限定的なプライバシー保証:「中央銀行はユーザーのウォレット内の残高や取引に関する識別可能な情報にアクセスしない」と明記されているものの、「プライバシーの水準はユーザーの種類に応じて定義される」とも記載されている。つまり、プライバシーが絶対的なものではないことを意味している。
  • 強制執行機能と制限:「本システムは制限の実施および強制執行をサポートする」と記されており、これは利用制限が課される可能性を示唆している。デジタル・シェケルは、ウォレット残高に対して技術的に制限を課す機能を備えて設計されており、つまり、個人が自身のデジタルウォレットに保有できる金額が定義され、それをリアルタイムで監視可能な仕組みである。誰がこのような制限を執行できるかについて文書内で明示されていないが、強制執行機能の存在自体が、ウォレット凍結や取引のブロックといった利用制限を理論的に可能にする統制メカニズムの存在を示している。これによりって、金融の自由、プライバシー、制度的権力に対する疑問が生じる。
  • 政府による統制:イスラエル銀行が「デジタル・シェケルの発行および償還の権限をもつ唯一の主体」とされており、ビットコインなどの暗号資産のように分散型の代替手段が存在しないことを意味している。

現金依存型コミュニティへの影響

調査では各人口層における関心の度合いについても触れられており、特に超正統派(ハレディ)コミュニティにおいては、デジタル・シェケルへの関心がもっとも低い部類にあると報告されている。しかし、現金に強く依存しているコミュニティにとってデジタル通貨への移行がどのような影響をもたらすかについては、明確な言及がなされていない。将来的に現金の使用が制限される事態になれば、デジタル・シェケルはこれらの人々にとって深刻な課題となる可能性がある。

ハレディ・コミュニティにおける関心の低さの理由として、以下の点が考えられる。

  • 明確な現金嗜好:ハレディの多くは、プライバシーへの懸念、銀行への依存を避けたいという意識、そして一部には現代の金融システムに対する伝統的な反対姿勢から、現金を好んで使用している。 
  • デジタルリテラシーの格差:ハレディの一部は、金融に関するデジタルリテラシーの水準が一般市民よりも低い傾向にある。 
  • 規制による統制への懸念:現金はある程度の経済的自立性を保てる手段だが、デジタル・シェケルは政府による支払いの統制を強化するおそれがある。 

高齢者層について

2023年、イスラエル・インターネット協会は65歳以上のイスラエル人を対象とした調査を実施した。その結果、約30%がインターネットをまったく使用しておらず、「少なくとも一部の人々については、アクセスの格差をいまだ克服できていないといえる」と報告されている。60歳以上の人口層はイスラエル全人口の約25.3%を占めている(2020年時点のデータ)。これはテクノロジーへのアクセスが限定されている人々の典型的な例であり、同時にデジタル・シェケルの利用にも制約を受ける可能性が高い層でもある。

今回の調査はデジタル形式で実施されたため、インターネットを使用していない約30%の高齢者層はサンプルに含まれていない可能性が高い。実際に調査参加者のうち60歳以上は全体の13%(第1回調査13%、第2回調査12%)にとどまっており、これは一般人口に占める割合の約半分にすぎない。つまり、60歳以上の人々は明らかに過小評価されていた。

これによって、以下のような懸念が生じる。

  • デジタル排除:65歳以上の相当数が調査に物理的に参加できなかった。 
  • 技術対応力の過大評価:デジタルスキルをもつ高齢者のみが参加した場合、シニア層全体の関心が過大に見積もられている可能性がある。 
  • アクセシビリティ格差:技術的な操作が困難な人々はデジタル・シェケルの利用にも苦労する可能性があるが、そうした視点は調査結果に反映されていない。 

これらすべての要素は調査結果の解釈にバイアスを生むおそれがあり、その点を考慮する必要がある。より正確な実態把握のためには、研究者がデジタルアクセスのない人々にリーチできるよう、電話や対面によるインタビューといった調査手法を組み合わせるべきだった。

CBDCの最新動向

フォーラムでは、KPMGイスラエルのベン・ベナコット(Ben Benakot)氏がCBDC(中央銀行デジタル通貨)分野の最新動向について発表を行なった。彼によれば、世界のほとんどの国々がCBDCの導入に向けた検討を進めており、そのうち65カ国が高度な調査・研究段階にあるという。

ベナコット氏が紹介した事例のひとつがブラジルだ。同国では、ブラジル中央銀行がCOVID-19のパンデミック期に小売決済システム「PIX(ピックス)」を導入し、急速な普及を遂げた。現在、中央銀行は「DREX」と呼ばれるホールセール向けCBDCシステムに取り組んでおり、PIXを用いたWhatsApp上での支払いを可能にするため、Metaとの連携も完了している。

また同氏は、先進的な西側諸国においてCBDCが実際に導入された例はまだ存在しない点を指摘。これが、イスラエル銀行が拙速な決定を避けている一因とも考えられる。なお、イスラエル銀行はこれまでも、欧州中央銀行(ECB)の動向をモデルとして注視していると公言してきた。

CBDC導入をめぐるEUと中国の話

「CBDC ILフォーラム」の閉会挨拶で、私は最近EUで実施された調査にも言及した。これはあまり好意的とはいえない結果を示すものであり、フォーラムでは専門家の誰からも取り上げられなかった。過度にポジティブな語り口に一石を投じることは重要であると感じ、以下の点を出席者に伝えた。

3月12日、欧州中央銀行は「CBDCに対する消費者の態度」というタイトルのワーキングペーパーを発表した。これはユーロ圏11カ国で約1万9000人を対象に実施された調査であり、デジタル・ユーロの導入を妨げる重大なコミュニケーション上の課題が浮き彫りとなった。報告書によれば、欧州市民の多くはデジタル・ユーロにほとんど関心を示しておらず、既存の決済手段を強く好み、新たな決済システムに関しては多くの代替手段がすでに存在していることから、付加価値を見出していないという。

それにもかかわらず、欧州中央銀行は、規制当局の承認を前提に、2025年10月からデジタル・ユーロの導入を開始する方針を最近発表している。

EUのCBDC計画に関する詳細は、私の最近の記事ECB Prepping the Ground for Digital Euro Launch欧州中央銀行、デジタル・ユーロ導入に向けた地ならしを開始)」で紹介している。

「CBDC ILフォーラム」で、私は中国におけるCBDCの高い普及率についても補足した。これは必ずしも国民の自発的関心の結果ではなく、むしろ中央銀行主導のトップダウン型の市場戦略によるものだと説明した。いわば「勝てないなら参加せよ」というアプローチだ。

中国のe-CNY(CBDC)は、初期段階では普及率が低迷しており、プロジェクトは失敗とみなされていた。そこで中国人民銀行は、主要な小売企業やテクノロジー企業に対して、同国でもっとも利用されているアプリ(DiDi、Meituan、Ctrip、WeChat Pay、Alipay)へのe-CNY統合を指示した。これによって一気に普及が進んだ。

現在、e-CNYのデジタルウォレットのユーザー数は約1億8000万人に達し、累計取引額は1兆ドルにのぼる。

信頼度

イスラエルの調査参加者のうち70%がイスラエル銀行を信頼していると回答した。フォーラムでは、KPMGのベナコット氏が「信頼の問題」に関して次のように述べた。「政府を信頼できないのなら、CBDCは問題のあるテーマになりえる。なぜなら、理論的にはCBDCによってより多くのデータが国家に集まるからだ」。ベナコット氏は、イスラエル銀行が設計しているCBDCシステムは同銀行がユーザー情報へ直接アクセスできないように構築されており、情報へアクセスできるのは認可を受けた決済事業者に限られると説明した。しかし、それでも将来の政府が制度を変更し、個人アカウントやデータに直接アクセスする可能性を否定する根拠はないと指摘した。

また、彼はイスラエルの税務当局を例にとり、現在でも市民の金融データを(即時かつ直接的ではないにせよ、監視の下で)把握できる体制にあることを挙げ、「理論上、デジタル・シェケルもそれと大きく変わらない」と述べた。

国民への周知とメッセージ

私がフォーラムで取り上げたもうひとつの重要な点は、イスラエル銀行が国民に対して公平かつ誠実でバランスのとれた情報提供を行なう責任があるということだ。私は次のように問いかけた。もし国民のデジタル・シェケル導入意欲を本当に理解したいのであれば、COVID-19のときのように専門家、インフルエンサー、メディア、SNS、看板広告などあらゆる手段を用いた全国的な情報キャンペーンをなぜ実施しないのか?

COVID-19のときとは異なり、なぜ、イスラエル銀行はポジティブな側面だけでなく、リスクやデメリットを含めた全体像を伝えようとしないのか?

イスラエル銀行は、この調査結果を発表した翌日には「国民の51%がデジタル・シェケルを望んでいる」とのメッセージをInstagramやFacebookなどのSNSに投稿した。私は、約20年間マーケティングに携わってきた経験から、このことについてあまりにも性急だったと指摘した。

🧠 新しい調査:イスラエル人の51%がデジタル・シェケルに関心あり! イスラエル銀行が、国家の公式なデジタル通貨について国民がどう考えているかを調査した。その結果は? 大多数の国民が利点を認識している――使いやすく、便利で、詐欺からも守られている。 驚くべきことに:特に40歳以上の高齢層が、このアイデアに最も熱心! 中央銀行によるデジタル通貨の発行については、まだ最終決定はなされていないが、未来はすでにここにあるようだ 💰📱 << 調査の詳細と完全な結果はこちら(イスラエル銀行のサイトへ)>> https://www.boi.org.il/publications/pressreleases/17-2-25/ 🔹 画像の文言: イスラエル人の51%がデジタル・シェケルに関心あり ※イスラエル銀行の調査による

マーケティングの初心者ですら知っていることがある。それは、「イエス」を強調すればするほど「ノー」がみえなくなるということだ。確かに関心を示した人はいた。だが、残りの49%はどうなのか?

実際のイスラエル銀行の投稿では、「大多数の国民がその利点を認識:使いやすく、便利で、詐欺から守られている」と述べられていた。大多数の国民? たった1000人の調査で51%が関心を示したという結果に基づいて?

さらに、投稿は「最終決定はなされていないが、未来はすでにここにあるようだ」と述べている。決定はすでにくだされており、あとは導入の日を待つだけ──。この文言はそんな印象すら与える。

結論

イスラエル銀行「デジタル・シェケル」チームのヤアコビ博士はフォーラムで次のように述べた。「私たちは未踏の領域に足を踏み入れており、現時点で確たる戦略はない」。つまり、イスラエルがどのデジタル金融ソリューションを採用するのかはまだ決まっていない、という意味だ。

ヤアコビ博士は「現在、われわれは3つの軸で取り組んでいる。ひとつはデジタル・シェケル、もうひとつはステーブルコイン、そして商業銀行預金のトークン化だ」と述べ、さらに「デジタル・シェケルだけかもしれないし、3つすべてになるかもしれない。もしホールセール型CBDCを導入する場合、立法はおそらく不要だが、リテール型であれば法整備が必要になるだろう」と付け加えた。

私の発言後、イスラエル銀行「デジタル・シェケル」チームのアサフ・ダビッド=マルガリット(Assaf David-Margalit)氏が応答し、「あなたの発言の一部は正確だったが、大半はそうではない」と述べた。私が「何が正確でなかったのか?」と問い直したところ、具体的な回答はなかった。私はダビッド=マルガリット氏に対して、具体的な説明を歓迎する旨を引き続き表明している。

最後に:
私は、デジタル・シェケルに関して国民の理解と関心を高めることが極めて重要であると考えている。なぜなら、「未来はすでにここにある」ことは明らかだからだ。だからこそ、デジタル・シェケルというシステムの利点だけでなくリスクについても率直に公に提示されるべきであり、自らの生活にかかわる選択に向けて、国民が正確な情報に基づいて主体的に参加できる環境づくりが求められる。

本記事はEfrat Fenigsonによるゲスト寄稿です。記事内に述べられた意見は、完全に筆者個人のものであり、BTC IncやBitcoin Magazineの見解を必ずしも反映するものではありません。

 

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