ビットコインは、従来の金融システムや政府の内部に密かに運び込まれた「トロイの木馬」だとよく喩えられる。だが、ステーブルコインこそ、われわれのシステム内にすでに巧妙に持ち込まれてしまったトロイの木馬なのだ。
ステーブルコインは、開発途上国にとって救世主のように称賛されている。老朽化した金融システムや現地通貨のリスクを回避するための前向きな脱出口として語られている。しかし、罠というものは魅力的でなければ、誰も自らその中に踏み込まないものだ。そうでなければ、罠としては機能しない。
ステーブルコインにおける重要な取引量はすべて、高度に中央集権化されたブロックチェーン上で発生している。それらは中央集権的なスマートコントラクトを通じて発行されており、ほとんどの場合(現時点ではLiquidのような例外もあるが)、発行体が任意のステーブルコイン・トークンを凍結または没収できる権限をもっている。発行されたトークンの大部分に関して、発行者は単独でそれらを凍結・差し押さえすることができるのだ。どこにいても、誰であっても、世界中がその対象になりうる。
こうしたブロックチェーンのほとんどは「アカウントモデル」で動作している。これは、デフォルトでユーザーの全取引が単一の公開アドレス識別子に紐づけられることを意味する。つまり、誰かのアカウントアドレスをひと目見るだけで、その人の全取引履歴を簡単に把握できるのだ。UTXOのクラスタリングも、複雑な分析も不要。ただアカウントアドレスを見ればよい。
さらに悪いことに、これらのチェーンが高度に中央集権化されているため、一般ユーザーが使用するソフトウェアのなかに「完全な検証」を行なうものが存在しない。ウォレットは毎回、限られた数の中央集権的なサーバーのいずれかに接続しており、その過程でIPアドレスとアカウントが結び付けられてしまう。
これは罠だ。純然たる罠だ。アメリカ合衆国はCBDC(中央銀行デジタル通貨)を必要としていない。なぜなら、米ドル建てのステーブルコインがすでに存在しているからだ。これらは、オンチェーンの活動と個人とを結び付けるあらゆるプライベート情報を極く限られた者の手の中に集中させる仕組みとして機能している。たった一度だけ、KYC(本人確認)義務のある取引所とやり取りを行なう、またはアドレスをインターネット上に投稿する、あるいはSNSのアカウントと関連付ける……そうした行為ひとつで、あなたの身元は特定されてしまうのだ。
ステーブルコインはCBDCと同じくプログラマブル(機能を自由に組み込める)である。例えば、「有効期限付きの通貨」や「特定の場所・方法でしか使えない通貨」といった制限の実装も可能だ。では、CBDCとステーブルコインを本質的に分けている唯一の要素とは何なのか? それは「普及度」である。ステーブルコインは好意的に受け入れられ、広く使用されている。一方で、CBDCはあらゆるところで否定的な感情を抱かれている。
すべての要素はもう揃っている。トークンを差し押さえるための中央集権的な管理ポイント。KYCデータとの紐づけひとつが永続的な監視の刻印となってしまう、完全なるプライバシー欠如。そして、そうした個人情報の完璧な集約。これらはすべて、アメリカ政府が望むときにいつでも押収・収集できる状態にある。そして、ステーブルコイン発行者に対して、政府の思い通りに行動させるための強制手段として利用される。
これらのステーブルコインは米ドルの代替物であり、既存の金融システムとの連携が避けられない。その仕組みの必然の結果として、実際の米ドルや米国債を保有しなければならないからだ。 故に、ステーブルコインはつねに政府、特にアメリカ政府の支配下にある。政府がその気になれば、いつでもそうできるのだ。
私には理解しがたい。このような事態が進行していることを、人々がただ受け入れているだけでなく、積極的に歓迎すらしているという現実が、だ。ビットコインは、真に主権的で自由な貨幣を目指している。誰もが自らの富を自由に扱えるようにすることを存在理由としている。にもかかわらず、いまわれわれはそれとは真逆のもの、つまり政府による管理と監視を可能にする仕組みが、ビットコインの普及という流れに便乗してパラレルに広まっていることを、なぜか喝采しているように見える。
それが理に適っているとでもいうのか? どうか説明してほしい。
CBDCという「お化け」は、すでに実存している金融監視システム、すなわちステーブルコインから、われわれの目を逸らすための煙幕にすぎない。われわれはその実態に向き合うべきであり、見て見ぬふりをするべきではない。
本記事は、寄稿者によるコラム「Take」です。記事内に述べられた意見は、完全に筆者個人のものであり、BTC IncやBitcoin Magazineの見解を必ずしも反映するものではありません。