本日5月20日、ニューヨーク市で初となる暗号資産サミットが開催された。
会場となったのは、市長公邸である「グレイシー・マンション」。ニューヨークを拠点に活動するビットコインおよび暗号資産業界関係者が多数出席した。
サミットの開会に際して、エリック・アダムズ市長は「自分はこの業界が受けてきた苦しみを理解している」と強調。出席者に対して、「いまこそ声を上げ、ニューヨークでビジネスを始める時だ」と呼びかけた。
まず、アダムズ市長は「彼らが皆さんをどう扱ってきたか、見てください」と語りかけた。
さらに、「信念の人ではなく、まるで敵のように扱われてきた」と指摘。
そして、「皆さんはずっと陰に隠れてきた。出てきてください。いまこそ、その時です」と続けた。
アダムズ市長は、2021年に掲げた「ニューヨークを世界の暗号資産の中心地にする」という目標を改めて確認した。ただし、その公約にもかかわらず、これまでのところ大きな前進はみられていないのが現状だ。
その最大の障壁とされているのが、ニューヨーク州でデジタル資産関連のビジネスを行なう際に必要とされる「BitLicense(ビットライセンス)」である。
ライセンスの取得には10万ドル以上の費用がかかり、取得までには数カ月、場合によっては数年にわたる官僚的で煩雑な手続きや規制の壁を乗り越える必要がある。
こうした負担の大きさから、多くのスタートアップ企業がニューヨークでの事業展開を断念している。
このような背景を踏まえ、本日のサミットでは、アダムズ市長とニューヨーク市の最高技術責任者であるマシュー・フレイザー氏から出席者に対して、「ニューヨーク市をより暗号資産フレンドリーな環境にするための提言」が求められた。そのなかで多くの参加者が指摘したのは、「ビットライセンスの廃止」あるいは「ニューヨーク市を同ライセンスの適用対象外とする必要性」だった。
ニューヨーク市をビットコインと暗号資産の「サンクチュアリ・シティ」に
とある参加者は、「持続可能な暗号資産経済を築くには、ビットライセンスを撤廃する必要がある。少なくとも、ニューヨーク市内にレギュラトリー・サンドボックス(新技術を規制緩和下で試験導入する制度)を設けるべきだ」と語った。
別の参加者は、「ニューヨーク市は、ビットライセンスからの『サンクチュアリ・シティ(避難都市)』となるべきだ」と主張。
こうした発言は、サミット中に行なわれたラウンドテーブル形式の議論の後に出たものだ。参加者はビットコインや暗号資産に関するさまざまな問題について話し合い、その後、各テーブルの代表者が全員の前で提案を共有した(このイベントでは「チャタムハウス・ルール(発言内容は共有可だが、発言者の氏名は非公開)」が採用されたため、発言者の個人名は公開されていない。ただし、基調講演を行なった人物については名前を挙げることができる)。
「ニューヨーク市は “暗号資産のサンクチュアリ・シティ”になるべきだ」と語った参加者は、同様の前例として大麻産業を挙げた。州全体では認められていない段階でも、ニューヨーク市内ではすでに合法的に大麻ビジネスが展開されていた経緯があるからだ。
また、2013年にニューヨーク市で初の対面型ビットコイン取引所およびコミュニティスペース「Bitcoin Center(ビットコイン・センター)」を設立したニック・スパノス氏も、サンクチュアリ・シティ構想を強く支持した。
「私たちは移民に避難場所を提供している。であれば、暗号資産企業にも同じことができるはずだ」と、スパノス氏は熱意を込めて語った。

さらに、スパノス氏はビットライセンスの正当性に疑問を呈し、痛烈に批判した。
「ビットライセンスの導入から12年が経っても、たった30社しか取得していないなんて、そんなものがライセンスと呼べるのか!? あれはインサイダーのためのライセンスだ!」と、スパノス氏は声を上げた。
いまこそ、ニューヨーク州で暗号資産関連法を整備すべき
Galaxy社のCEOであるマイク・ノヴォグラッツ氏は、いまこそニューヨーク州が暗号資産業界の成長を後押しする法整備を行なう絶好のタイミングである、と強調した。
ノヴォグラッツ氏は「困難な5年間を経て、いまやワシントンDC(連邦政府)はこのテクノロジーを受け入れようとしている」と述べ、ニューヨーク州もそれに倣うべきとの考えを示した。
さらに、「ニューヨーク州では暗号資産事業を簡単に始められる状況ではなかった。ライセンス取得に非常に長い時間がかかっている」と、同氏は現行制度の問題点を指摘。
ノヴォグラッツ氏は、「暗号資産業界はいままさに飛躍の準備が整った段階にある」としつつも、実社会において真に価値のあるプロダクトを提供することで、自らの正当性を証明する責任が業界側にもあると語った。
そのうえで、「現時点で自分が本当の価値を感じているのは、ビットコインとステーブルコインだけだ」と結んだ。
ステーブルコインに関連しては、Tether(テザー)社の共同創業者であるブロック・ピアス氏が登壇し、ニューヨーク州議会に対して下院法案6266号と上院法案3262号の可決を呼びかけた。これらの法案が成立すれば、特定目的信託会社(デジタル資産を扱う信託形態)の設立と運営に関する基準が定められることとなり、テザーのような企業がニューヨーク州で合法的に事業を展開する道が拓ける可能性がある。
参加者から寄せられた暗号資産の活用案
サミットでは、銀行口座を持たないニューヨーク市民およそ30万5000人に対して、金融サービスを提供する暗号資産プロダクトを開発すべきだという提案も複数の参加者から出された。ただし、これらの提案のなかでビットコインを直接活用するという意見はみられなかった。
さらに、多くの出席者が強調したのは、「暗号資産やブロックチェーンに関する教育」を公立学校制度に採用すべきという点だ。
このテーマについては、アダムズ市長も自身の講演で言及している。
市長は「教育局(DOE)のすべての若者がブロックチェーンと暗号資産について理解しているべきだ」と語った。
別の参加者からは、ブロックチェーン技術を活用して市の公文書を保護する仕組みを導入すべきだという提案もあった。
(筆者自身もこの提案に触発され、ビットコインのOpenTimestampsプロトコルを活用して公文書保護サービスを提供するSimple Proof社の登用について、市として検討することを提案した。同社の取り組みは、選挙結果を含む重要文書の真正性を証明するために用いられている)
行動喚起
アダムズ市長は、「世界最高の街の市長である私がビットコインや暗号資産について話し始めれば、世界中が注目することになる」と語った。
だからこそ、市長はこの分野に精通した「もっとも優秀な人材」の力を借りたいと考えているという。市長自身がこの課題に本格的に取り組むにあたり、業界内の知見を集める意向を示した。
イベントの締め括りには、出席者に対して各々のメモをアダムズ市長のチームに共有するよう要請があった。市長のチームがその内容を確認し、今後の政策形成に協力を依頼する可能性があるという。
市長チーム側も本気度をみせており、フレイザー氏は出席者に対して「この産業の規制緩和を、市と協力して進めてほしい」と呼びかけた。
アダムズ市長と彼のチームは、本当にビットコインおよび暗号資産業界との協働体制を築き、ニューヨーク市でのビジネス展開を推進する方向へと動くのか? あるいは、4年前と同様に関心を失ってしまうのか? いまや、時が明らかにするのみだ。