ここ数年にわたるパキスタンとビットコインの関係は、一貫性を欠き、混乱に満ちたものとなってきた。2018年、パキスタン政府はビットコイン取引を全面的に禁止し、その理由として詐欺やマネーロンダリング、規制の欠如といった懸念を挙げた。
しかしその後、政府の姿勢は徐々に軟化し、規制当局はビットコインの背後にある技術に関心を示し始めた。さらには、裁判所がビットコイン禁止の合法性そのものに疑問を投げかける場面も見られた。最終的に、国民がビットコインを保有することは許可されるようになったものの、取引の実態は依然として不透明で、明確な規制も整っていない。
こうした一連の対応の変遷により、パキスタンにおけるビットコインの位置づけは「合法だが公に容認されているわけではなく、明確なルールも存在しない」という法的グレーゾーンに置かれている。このような状況は、国家としてイノベーションの推進と統制の維持という相反する課題の間で苦慮している現実を反映している。
NEW: 🇵🇰 パキスタンが戦略的な #ビットコイン 準備金の設立を発表📢
国家が動き出した🙌 pic.twitter.com/RFvQaU276g
— Bitcoin Magazine Japan (@BitcoinMagJapan) May 29, 2025
しかし、この混乱したビットコインとの関係性は、ここ数週間で大きな転機を迎えたように見える。ラスベガスで開催された「Bitcoin 2025」カンファレンスにおいて、パキスタン暗号資産評議会(Pakistan Crypto Council)の代表であるビラル・ビン・サキブ氏が、国家として戦略的ビットコイン準備金(Strategic Bitcoin Reserve)を創設する方針を明らかにしたのだ。
さらにサキブ氏は、2,000メガワットの余剰エネルギーをビットコイン・マイニングおよびハイパフォーマンス・コンピュータのデータセンターに割り当てる方針も発表した。加えて、パキスタン財務省は、暗号資産の規制を専門に監督する新たな政府機関の設立を命じており、これが実現すれば、ビットコインの保有や日常取引における利用に関する法的枠組みの透明化が進む可能性がある。
一方で、こうした動きを懐疑的に見る声もある。一部の批評家たちは、これは最近のインドとの衝突を受けて、パキスタンがトランプ大統領に接近するための政治的パフォーマンスに過ぎないと主張している。実際、サキブ氏はこのラスベガスの会場で「トランプ政権からインスピレーションを得た」と明言している。
また別の見方としては、将来的にテロ組織への支援を理由とした制裁が課されることを想定し、経済的な耐性を高めるための布石だとする意見もある。
だが、筆者の考えでは、こうした地政学的観点からの批判は、パキスタンが長年直面してきたより深い経済的現実を見落としている。
筆者は約1年前、あるパキスタンの新聞に寄稿し、ビットコインを取り入れることで得られる恩恵を考えると、同国は経済的に見て極めてユニークな立場にあると論じた。
というのも、パキスタンは制御不能なインフレ、資本形成の停滞、外貨準備高の枯渇、非効率な官僚制度、そして海外送金への過度な依存といった構造的な問題を抱えている。こうした状況は、国民の伝統的な金融システムに対する信頼を著しく損なわせ、多くのパキスタン国民が自らの資産と経済的自立を守るための代替手段を模索する動機となっている。
したがって、ビットコインの導入文化を育むことは、パキスタンが抱える数多くの経済的課題を和らげ、国民が自身の経済的未来を主体的に切り開くための大きな一歩となり得る。
本質的にデフレ的性質を持つ通貨であるビットコインを「稼ぎ」「取引する」ことで、パキスタン国民は、これまで国家の生活水準を著しく損ねてきたマクロ経済的な悪循環から自らを守る手段を手にすることができる。
ビットコインの普及は、同国における活発な送金市場にも変革をもたらすだろう。受け取り手は、従来よりも多くの金額を手元に残すことができ、コスト面でも効率化が図られる。また、非効率な銀行システムによって長年不利益を被ってきた人々を、こうした仕組みから解放する可能性もある。
さらに、承認を必要としないトランザクションは、これまで金融的自由を得ることが困難だった社会的弱者やマイノリティ層にも、新たな自立の道を切り開く可能性を秘めている。
今回の「戦略的ビットコイン準備金」の発表、そしてビットコイン支持の規制導入やマイニング戦略の推進といった一連の動きは、いずれも正しい方向性を示している。これは単なる政策ではなく、パキスタンという国家が、唯一無二の実用的なデジタル通貨=ビットコインに対して本格的な関心を寄せ始めていることの表れでもある。
そしてこれらの動きは、パキスタン国内にとどまらず、世界的な潮流の一部でもある。特に、ハイパーインフレーションが日常化し、既存の銀行システムが国民のニーズを満たせなくなっている国々では、ビットコインへの姿勢が大きく変わりつつある。
しかしながら、真の変化が訪れるのは、パキスタンがビットコインを正式に「デジタル通貨」として法的に認め、社会全体への普及に向けた具体的な施策を講じてからである。
それによって初めて、一般のパキスタン国民は国内の銀行システムに依存することなく、世界中の人々と自由に取引できるようになる。地方の農村部や都市圏から離れた地域に住む人々にとっても、金融的自立が現実的な目標として見えてくる。さらには、文化的な制約の中で経済活動を制限されがちな女性たちも、自ら稼ぎ、貯蓄し、ビットコインというデジタル通貨で自由に取引する手段を手にすることが可能になる。
戦略的ビットコイン準備金の創設は、「ビットコインを価値ある資産として国家が信頼している」という姿勢を示すに過ぎない。それは、「法定通貨の制約を乗り越えるための手段として、国家がビットコインを採用した」というメッセージではない。
加えて、戦略準備という形で国家がビットコインを保有することは、デジタル通貨を国家権力に接近させ過ぎるという側面もある。ビットコインは本来、国家による通貨支配に対するヘッジとして設計されたものであり、中央集権的に保有されること自体がその本質と矛盾する可能性をはらんでいる。
つまり、戦略的準備は、国内インフレや通貨の価値下落、非効率な銀行制度といった経済的困難に対して、ビットコインが本来持つバッファを完全に引き出すものではない。
ハイパーインフレーションに苦しむどの国にとっても、戦略的ビットコイン準備金は正しい方向への一歩である。そしてそれはパキスタンにおいても例外ではない。しかし、本当に国家全体にとってのビットコインの恩恵を解き放つためには、大衆的な導入こそが不可欠であり、その実現にはまだ長い道のりが残されている。
筆者の考えでは、戦略準備はビットコインの本質ではない。とはいえ、これが「国家全体がビットコインに目覚めていく(=オレンジ・ピルを飲む)」長く希望に満ちた旅路の第一歩であることを、心から願っている。