6月29日(米国時間)、JPモルガンは連邦レベルのデジタル資産関連法案への支持を表明したが、同行が議会に送ったメッセージは、支持表明というよりもむしろ警告に近いものだった。つまり、適切な制度設計を行なわなければ、規制が本来防止しようとしていた金融システム上の脆弱性を再び生み出す危険がある、というものだ。
JPモルガン・ペイメンツのグローバル共同責任者であるウマル・ファルーク氏と、デジタル資産・ブロックチェーン・ソリューションズのCEOであるピーター・ムリウンギ氏は、共同論説の中で、米国にはデジタル金融分野で世界をリードする真の機会があると主張した。ただし、そのためには、規制の明確化と長期にわたって機能する強固な安全措置を組み合わせることが不可欠だと指摘している。
この寄稿は、上院が8月の休会前に「Digital Asset Market Clarity Act(CLARITY法案:デジタル資産市場明確化法案)」を可決させようと奔走するなかで発表された。一方、交渉担当者たちは、ステーブルコインの利回りに関する規定、暗号資産関連企業と利害関係をもつ政府高官に対する倫理規定、分散型金融(DeFi)開発者に対する法的責任保護など、いくつかの争点について、依然として協議を続けている。
ファルーク氏とムリウンギ氏は、「規制の明確化は、それが長期的に機能する強固な安全措置と組み合わされて初めて意味をもつ。抜け穴や不備を伴うかたちで規制を明確化すれば、活動は監視の緩い領域へと流れ込み、長年にわたって築かれてきた保護の仕組みを弱体化させる可能性がある」と記している。
この論説記事で際立っているのは、何を称賛しているかという点よりも、何に警鐘を鳴らしているかという点だ。トークン化やプログラム可能な通貨の可能性を前面に出すのではなく、適切な安全策が整備されなければ、暗号資産分野のイノベーションがどのような問題を引き起こしうるかについて、ファルーク氏とムリウンギ氏は紙幅の多くを割いて論じている。
ステーブルコインとブロックチェーンに関するJPモルガンの見解
市場構造について、JPモルガンの立場は明確だ。ある商品や資産がどのブロックチェーン上で発行されているかで、その経済的な性質が変わることはないというものだ。証券のような性質や機能をもつ資産は、情報開示、カストディ(資産管理・保管)、市場の健全性をめぐる規制の対象となるべきだとしている。
また、ブローカーや取引所のように機能する分散型取引プラットフォームについても、同じ基準を適用すべきだと論じている。ファルーク氏とムリウンギ氏は、トークン化は市場の仕組みを改善するためのものであるべきで、米国資本市場を世界でもっとも信頼される市場たらしめてきたルールを回避するための手段として利用されるべきではないと主張している。
JPモルガンは、とりわけステーブルコインに大きな関心を寄せている。この分野について、同行は、商業的な機会であると同時に競争上の脅威でもあると見ているようだ。ファルーク氏とムリウンギ氏は、ステーブルコインやトークン化された預金は、決済の迅速化や国際送金における摩擦(コストや手間)の軽減を実現する可能性があると述べている。
しかし、こうした商品が利回りのようなインセンティブを提供したり、銀行並みの自己資本規制、流動性規制、消費者保護基準を満たさないまま利用者の資金残高を保有したりするようであれば、決済分野のイノベーションは実質的には、別の名で呼ばれる「シャドーバンキング」に過ぎなくなると警告している。
さらに、保有残高に応じた報酬やキャッシュバックといった仕組みは、多くの消費者に対して、その商品が銀行預金と同じような保護を受けられるかのような印象を与えてしまう。しかし、実際にはそのような保護が存在しない場合、結果として、取り付け騒ぎが発生するリスクが高まり、市場がもっとも混乱する局面で、その脆弱性が一気に表面化することになる。
JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOは、この問題について銀行業界でもっとも強硬な発言を続けている人物のひとりだ。ダイモン氏は先月、「銀行はそれを受け入れない」と述べ、CLARITY法案に盛り込まれているステーブルコインの利回りに関する条項については、「最後の最後まで徹底的に闘う」と表明した。
また、ファルーク氏とムリウンギ氏は、デジタル資産エコシステム全体にわたる強力なマネーロンダリング対策(AML)と法執行機関による監視・捜査のための仕組みを整備する必要があると訴えた。両氏によれば、中核的な取引処理を担うインフラに対して広範な適用除外を認めれば、真の所有者を隠蔽する不透明な仕組みを可能にしてしまう恐れがあり、国家安全保障と市場の健全性の双方にとってリスクとなるという。
もっとも、この共同論説は、JPモルガンの事業戦略と無関係に発表されたわけではない。29日同日、JPモルガンは同社のブロックチェーン決済プラットフォームであるKinexysの対応通貨を8種類に拡大すると発表した。すでに米ドル、ユーロ、英ポンドに対応しているシステムに、オーストラリアドル、香港ドル、日本円、中国人民元、シンガポールドルが新たに追加されることになる。
このプラットフォームはこれまでに4兆ドルを超える取引を処理しており、一日当たりの平均取引額は70億ドルを超えている。新たな通貨口座を利用する最初の顧客には、Payoneer社と日本のエネルギー取引会社であるJERA Global Markets社が含まれている。
Kinexysは今年初め、 JPM Coinを立ち上げている。JPM Coinは、機関投資家向けに設計された預金トークンであり、規制された銀行システムの枠内にとどまりながら、24時間365日ほぼ即時の決済を実現することを目的としている。このトークンは、JPモルガンが運営する許可型ブロックチェーン・ネットワーク上で稼働しており、顧客の預金はデジタル化されたかたちで表現される。そして、送金はパブリックなブロックチェーン上ではなく、このネットワーク内で決済される仕組みとなっている。
一方、今週初めには、フィデリティ・インベストメンツ社が、現在のビットコインを取り巻く「暗号資産の冬(低迷期)」は、ひとつ、または複数の大きなきっかけが出現すれば終焉を迎える可能性があると指摘している。その要因として、4年ごとの半減期サイクルの継続、暗号資産をめぐる規制の明確化、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ、暗号資産の新たな画期的ユースケースの登場、機関投資家による新たな採用の拡大などを挙げている。
これらの要因が実現する保証はないものの、フィデリティは、過去の事例を振り返ると、供給構造、政策、マクロ経済環境、投資家需要に同様の変化が生じた後には、大規模な強気相場が到来することが多いと論じている。