連邦保安官局(USMS)は、サムライウォレット(Samourai Wallet)の開発者であるKeonne RodriguezとWilliam Lonergan Hillが司法取引の一部として米司法省(DOJ)に支払った、約630万ドル相当のビットコインを売却したようだ。
この行為が事実であれば、刑事・民事没収手続きによって取得されたビットコインを「米国戦略ビットコイン準備金(SBR)」の一部として保有することを義務付けた「大統領令(EO)14233号」に対する、重大な違反となる可能性がある。
サムライウォレット事件の管轄であったニューヨーク州南部地区連邦検事局(SDNY)が、実際に大統領令14233号を無視したのであれば、SDNYの職員が連邦政府の指示に公然と背いた最初の事例とは言えないだろう。彼らの「独走」には前例があるからだ。
ビットコインに何が起きたのか
Bitcoin Magazineが入手し、今回初めて公開される「資産清算合意書(Asset Liquidation Agreement)」と題された文書によれば、RodriguezとHillが没収されたビットコインは、売却される予定であるか、既に売却済みである。
- 文書によると、被告側は6,367,139.69ドル相当のビットコイン(最終署名日である2025年11月3日時点で57.55353033 BTC)をUSMSに移転することに合意した。最終署名は、セシリア・フォーゲル連邦検事補によるものである。
- 2025年11月3日にアドレス bc1q4pntkz06z7xxvdcers09cyjqz5gf8ut4pua22r から送信されたビットコインは、資金がUSMSの金庫(カストディ)を「素通り」した形跡がある。
- 当局の手元に留まることなく、Coinbase Primeのアドレス 3Lz5ULL7nG7vv6nwc8kNnbjDmSnawKS3n8(Arkham Intelが同ブローカーのものと特定)へ直行しており、これは即時売却目的であったと推測される。
- 現在、このCoinbase Primeアドレスの残高はゼロになっており、ビットコインがすでに売却された可能性が高いことを示唆している。
大統領令14233号への明白な違反
もしUSMSが没収されたビットコインを売却したのであれば、大統領令14233号に抵触する可能性が高い。同令は、米政府が刑事没収を通じて取得したビットコインを「政府BTC(Government BTC)」と定義し、「売却してはならない」と定めているからだ。それらは本来、米国のSBR(戦略準備金)に組み入れられるべき資産である。
USMSが法的義務ではなく独自の裁量でビットコインを売却したとすれば、それはDOJ内の一部の勢力が、依然としてビットコインを「戦略的資産」ではなく、早急に処分すべき「タブー資産」と見なしている証拠と言えるだろう。トランプ大統領が政府機関に保有を指示したにもかかわらず、である。
サムライウォレットへの訴追が、ノンカストディアルな暗号資産ツールや開発者に対して敵対的であった前政権下で始まったことを考えれば、この動きはある種のパターンに合致する。行政府からの命令を無視してまで売却を強行する姿勢は、ビットコインを政府のバランスシートから一刻も早く排除しようとする旧態依然とした官僚的抵抗の表れだ。
没収と清算を巡る法的矛盾
本件に近い法曹関係者によると、サムライウォレット開発者のビットコイン没収は合衆国法典第18編982条(a)(1)に基づいている。これは、無許可の資金移動業の運営を禁じる第18編1960条に違反した場合、その犯罪に関与した財産を米国に没収することを命じるものだ。
第982条およびそこに組み込まれている第21編853条(c)(第三者に移転された財産も没収対象となり得る旨の規定)に照らせば、RodriguezとHillが没収されたビットコインは、大統領令における「政府BTC」の定義に合致する。
- 第982条も第853条も、刑事犯罪の一部として没収された財産を「清算(現金化)」しなければならないとは規定していない。
- さらに、大統領令のセクション3で引用されている資金没収に関する法律(第31編9705条および第28編524条(c))は、没収収益の預託先や使途を規制するものであり、現物保有ではなく現金化を義務付けるものではない。
また、大統領令は「政府BTC」が「政府デジタル資産」の枠組みに含まれるとし、「各省庁の長は政府デジタル資産を売却または処分してはならない」と規定している。例外的なシナリオも存在するが、RodriguezやHillのケースには当てはまらない上、例外適用には司法長官の関与が必要となるはずだ。
「ニューヨーク主権地区」の独走
大統領令14233号および関連法規を考慮すると、SDNY(ニューヨーク州南部地区連邦検事局)の行動は、刑事没収で得たビットコインをSBRに移管するという命令に対する反逆に見える。
これはSDNYにとって初めての「単独行動」ではない。
その独断的な姿勢から、この管轄区は「ニューヨーク南地区(Southern District)」をもじり、皮肉を込めて「ニューヨーク主権地区(Sovereign District)」と揶揄されるほどだ。サムライウォレット事件や、Tornado Cash開発者Roman Stormに対する強硬な訴追姿勢など、今回の暴走はまさに彼らが「連邦の中の独立国家」として振る舞っている証左と言えるだろう。
2025年4月7日、トッド・ブランチ司法副長官は「訴追による規制の終焉」と題したメモを発行し、「司法省は今後、エンドユーザーの行為を理由に、仮想通貨取引所、ミキシングサービス、オフラインウォレットを標的とすることはない」と明言した。
しかし、SDNYはこのメモの文言を無視し、サムライウォレットやTornado Cashの裁判を強行したようだ。
さらに、HillとRodriguezの弁護団がブレイディ開示請求(検察側が持つ被告に有利な証拠の開示)によって明らかにした事実によれば、財務省金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)の2名の高官が、サムライウォレットはそのノンカストディアルな性質上「資金移動業者には該当しない」と強く示唆していたという。それにもかかわらず、検察は訴追を止めることはなかった。
連邦裁判所制度における刑事事件の有罪率は90%を超え、年によっては無罪判決がわずか0.4%に留まることさえある。被告人にとって、それは絶望的な数字だ。
Rodriguezはこれらの統計と、担当判事であるDenise Cote判事が厳しい量刑で知られていることを熟知していた。彼が無許可資金移動業の共謀罪を認める司法取引に応じる前日の朝、彼は私にその苦悩を語っていた。
暗号資産戦争は本当に終わったのか
2024年にトランプ大統領に投票した多くのビットコイナーや、再選を支持した暗号資産業界は今、疑念を抱き始めている。「トランプ大統領は本当に、暗号資産戦争を終わらせる気があるのか?」と。
戦争を終わらせるためには、トランプ政権下の司法省が大統領令14233号を遵守し、ノンカストディアル技術の開発者に対する訴追を停止するというブランチ司法副長官の指針に従わなければならない。
後者に関して言えば、トランプ大統領は最近、Rodriguezへの恩赦を検討していると述べた。
彼がRodriguezを恩赦し、同時に「なぜ司法省はサムライウォレット開発者から没収したビットコインを売却したのか」を徹底的に調査させること。それこそが、大統領の「親ビットコイン」姿勢が単なるポーズではなく本物であるか否かを測る、唯一のリトマス試験紙となるはずだ。

