ビットコイン準備金モニター(Bitcoin Reserve Monitor)によれば、現在、全米の20の州で「戦略的ビットコイン準備金(Strategic Bitcoin Reserve:SBR)」に関する法案が係争中だ。こうした係争は強気な姿勢と受け取られるかもしれないが、「デジタル資産に関する銀行業務小委員会」の委員長に就任したシンシア・ルミス上院議員が推し進める包括的な連邦法制によって、今後はかき消される可能性もある。
ビットコインが登場してから16年。推測や憶測、試行錯誤、ブロックサイズ戦争、デバンキング(金融機関による締め出し)を経て、ビットコインは遂に大きな転換点に立とうとしている。ビットコインのインフレ率はすでに1%未満。発行上限が2100万BTCという希少性は、各国の中央銀行が必ずもたらす通貨価値の目減りに対する防壁となっている。
さらに重要なのは、ビットコインのブロックチェーンが誰でも容易に検証できるという点だ。これは、国家の保有する金(ゴールド)準備のようにブラックボックス化されたものとは決定的に異なる。こうした特徴もあって、ビットコインは中央集権的な計画経済からの干渉を受けにくい「最高の退職後資産」として明確に地位を築きつつある。
では、ビットコインを退職後の資産として実際に活用するとは、どのようなことなのか? その答えを探るには、まず、SBRという概念がいまや政府レベルで議論されているという事実そのものの重要性に目を向ける必要がある。
戦略的ビットコイン準備金(SBR):認識転換への最後のひと押し?
最終的に、人間社会のあらゆる構造が機能するために必要な究極の資源は「信頼」である。信頼は人間同士の関係性を支えるのみならず、大規模な社会システムの根幹にもなっている。だからこそ、近年イーロン・マスク氏のドージコイン(DOGE)にUSAID(米国国際開発庁)から資金が流れていた件で判明したように、「ナラティブ・コントロール(言説の支配)」が体制の名称や性質を問わず、統治システムにおいて極めて重要なのだ。
信頼は非常に貴重なものである一方で、代替可能な資源でもある。社会の安定という観点からいえば、たとえ「虚構」に対する信頼であっても、それが成立している限り、「真実」に対する信頼と同等の価値をもちうる。しかし、前者(虚構への信頼)は持続性に乏しく、制御のためには常に強力な介入が求められるようになる。結果として、管理された信頼というものは構造的に脆弱性を抱えることになる。
その対極に位置するのが、信頼を前提としないビットコインというシステムだ。逆説的ではあるが、ビットコインは「主観的な信頼」を極限まで削減し、「客観的な真実」を最大化することによって、もっとも強固で持続可能な信頼の枠組みを生み出している。この客観性は、ビットコインの中核にある暗号技術とプルーフ・オブ・ワーク(PoW)によって保証されている。
一見すると、こうした特性を備えたビットコインは「価値の保存手段」として明白な選択肢に思えるかもしれない。しかし、話はそう単純ではない。これまで何度も行なわれてきた調査によれば、年齢が上がるにつれて、人々はビットコインやその他のデジタル資産に対する信頼を失う傾向にあることが明らかになっている。
なぜ、このような傾向がみられるのだろうか? なぜ、豊富な経験をもつはずの人々が、ビットコインのような最高度の信頼管理システムに対して、もっとも懐疑的な姿勢を示すのだろうか? 高齢者こそ、こうした革新を歓迎すべきではないのか?
その理由は、「評判のシグナリング」が技術的理解を凌駕するためだ。そして多くの場合、人は社会的な後押しがなければ、そもそも技術を理解しようとすらしない。言い換えれば、ある技術や概念が社会に受け入れられて日常生活に統合されるためには、権威ある人物によって正当化される必要がある。そうでなければ、その技術は「周縁」のものとして扱われ続ける。
特に、高齢層では「信頼に関する意思決定を行なう際、心の理論や記憶にかかわる脳領域において、評判に関連する活動がより顕著である」ことが、2023年に発表された研究論文『Age-related Differences in the Social Associative Learning of Trust Information(信頼情報における社会的連想学習の加齢による違い)』の計算モデルから明らかになっている。
要するに、高齢層にとって、ビットコインに関する情報の主たる供給元、そして「正当化の担い手」となってきたのは、大衆向けのマスメディアだ。しかし、ドージコインに関する一連の暴露が示すように、マスメディアは政府と強く結び付いている。そのため、メディアにおける正当化プロセスは事実上、政府の意向によって始まり、政府の姿勢によって終わる。
だからこそ、「ビットコイン戦略的準備金(Bitcoin Strategic Reserve:BSR)」が提案されたという事実は、極めて画期的な転換点となる。この構想は国家の最上層からビットコインに対する信頼が表明されたことを意味し、それが高齢層の重視する「正当化の階層」に波及することになる。たとえメディアがトランプ政権に敵対的であったとしても、BSRの存在によってビットコイン報道の論調は大きく変わることになるだろう。それは永続的な変化をもたらす。
BSRは「ビットコインに関する社会的認識を根本から変えるための最後のひと押し」として理解されるべきだ。そうした意味でも、すでにその影響の兆しは現れつつある。
ブーマー vs ズーマー:保有者 vs 挑戦者
各種調査によれば、若い世代ほどデジタル資産を積極的に利用する傾向がある一方で、Z世代(ズーマー)は「持ち家」への期待値がもっとも低いことも示されている。これは、いわゆる「アメリカン・ドリーム」が世代間で大きく断絶していることを意味し、その価値観が崩れつつある現実を反映している。しかし、この流れは本当に今後も続くのだろうか?
仮にBSRがベビーブーマー世代(1946〜1964年生)にとって新たな社会的シグナルとして機能するようになれば、話は大きく変わる可能性がある。2023年時点でこの世代は米国の純資産の約52%、およそ78.1兆ドルを保有しており、世代別でみてもX世代(1965〜1980年生)やミレニアル世代(1981〜1996年生)を圧倒的に上回る富を抱えている。
KPMGの都市経済学者であるテリー・ロンズリー氏によれば、ベビーブーマーの平均純資産は231万ドル。これに対して、X世代は188万ドル、ミレニアル世代は75.7万ドル、Z世代はわずか9.6万ドルにすぎない。
もしブーマー世代がBSRによる社会的シグナルをきっかけにビットコインへの信頼を深めた場合、たとえごく一部の資産であっても、カストディ(第三者管理型)またはノンカストディ(自己管理型)いずれの形式であれ、ビットコイン市場に流入すれば、価格に劇的な影響を与える可能性がある。実際、すでに複数の機関が、資産ポートフォリオにおけるビットコインの推奨配分を「1%以上」と提案している。
資産運用会社のVanEckはその数字を3%と見積もっており、スタンダードチャータードのジェフリー・ケンドリック氏は政府系ファンドから最大5%の配分を予想している。これらを総合すると、ビットコインの価格は2028年までに50万ドルに達し、時価総額は約10兆ドルにまで上昇することになる。
その結果、たとえブーマー世代ほどの資産を持たない若年層であっても、ビットコインを通じて堅実な退職後の資産基盤を築けるようになる。そして、ビットコインが退職後資産の最有力候補としての認識を得るならば、これは価値上昇のほんの始まりに過ぎないのかもしれない。
ビットコイン:高性能な退職後資産
もっともシンプルなケースとして、ビットコインを「成熟資産」として活用する方法は大きくふたつに分けられる。ひとつはセルフカストディ(自己管理)の方法で、オフラインストレージ(コールドウォレット)を用いて、自らブロックチェーンへのアクセス権を安全に保管するというもの。もうひとつは、ビットコイン本来の「信頼不要(trustless)」という特性を手放して、ETF(上場投資信託)や仮想通貨取引所などの仲介機関に依存するかたちで運用する方法だ。実際、ビットコインに連動したETFは複数存在し、米国などで取引が行なわれている。
ビットコインを保有して以降は、政府の財政支出や中央銀行の政策が結果的にBTC保有者に利益をもたらすことになる。各国の法定通貨が価値を失うにつれて、ビットコインは膨大なエネルギーとコンピューティング・ネットワークによって支えられた分散型台帳として資金を引き寄せる存在となる。
これまで、人々はドル価値の減退に備えるため、株式、商品、債券といった資産に頼ってきた。これらの基本的な金融商品を組み合わせることで、長期的なリターンの最大化を目指すさまざまなポートフォリオ戦略が構築されてきた。ある人は個別株に集中投資し、ある人は投資信託を通じて多様な資産に分散投資を行なう。また、金や銀といった貴金属を保有することで価値の保存を試みる者もいる。
投資信託(ミューチュアルファンド)は、特に退職後の資産運用において人気の選択肢となっている。米国の401(k)やIRA(個人退職口座)は税制優遇を受けるためだ。言い換えれば、ビットコインを退職資産としてスムーズに組み込むための金融インフラは、すでに整いつつあるということだ。
実際、ビットコインに対応した個人退職口座(Bitcoin IRA)はすでに複数存在しており、BitIRAやiTrustCapital、Bitcoin IRA、Alto IRAなどが知られている。
とはいえ現時点では、ビットコインの運用は「ペーパー・ビットコイン(現物ではなく金融派生商品を通じた間接的な投資)」が依然として主流だ。例えば、Bitcoin ProFund(BTCFX)は、先物契約を通してビットコインへのエクスポージャー(価格連動投資機会)を提供するアクティブ運用型のミューチュアルファンド。このファンドは2021年7月の開始以来、年率換算で22.10%のパフォーマンスを投資家にもたらしている。

比較として挙げると、一般的な401(k)におけるミューチュアルファンドの平均リターンは年率3〜8%の範囲に収まっている。インフレ率を考慮すると、この数字もさらに見劣りする結果となる。また、インフレ指標そのものも、政治的な意向から「相対的重要度(各品目が家計に占める比率)」を調整することで操作される場合がある。
この問題は雇用統計や給与水準にも共通している。インフレ調整後の実質所得でみた場合、「横ばいで推移」というのが、もっとも楽観的なシナリオであることが多い。
It’s not just years’ worth of jobs numbers that were revised down in today’s report, but earnings data too – turns out the inflation-adjusted average weekly paycheck fell even further under Biden than previously estimated; people are earning 16.8% more but can afford less: pic.twitter.com/EqfAL3zfy5
— E.J. Antoni, Ph.D. (@RealEJAntoni) February 7, 2025
こうした要素を踏まえると、年率22.10%というペーパー・ビットコインのリターンでさえ、それほど印象的な数字にはみえない。それでもなお、従来の資産運用と比べれば優れた成果であることに変わりはない。さらに重要なのは、2022年から2023年にかけての期間がビットコインにとって「異常な時期」であったという点だ。
当時、ビットコインは過剰なレバレッジを抱えた広範な暗号資産市場とひと括りに評価されていた。バブルは2022年3月のFRB(米連邦準備制度理事会)による利上げのわずか数カ月後に崩壊を始めた。最初に崩れたのは、アルゴリズム型ステーブルコインTerra(LUNA)で、その影響はCelsius NetworkやBlockFiといったレンディングサービスへと波及、最終的にはビットコイン・マイニング企業Core Scientific(CORZ)や暗号資産取引所FTXの破綻へとつながっていった。
この混乱は、米国政府による暗号資産関連企業を銀行ネットワークから締め出す政策的な動き「オペレーション・チョークポイント2.0(Operation Choke Point 2.0)」によって加速された側面もある。
とはいえ、この「締め出し」を主導したとされる人物のひとり、エリザベス・ウォーレン上院議員はのちに態度を一変させた。また、FRBのジェローム・パウエル議長も「このような(締め出しに関する)報告の多さには懸念を感じている」と公式に発言している。
つまり、インフレ率や雇用統計の信憑性に疑問をもつ余地があるように、ビットコインのパフォーマンスに対しても疑いをもつことは可能だ。しかし、より公平な土俵が整った現在、その疑問は「前向きな方向」でもたれるべき段階に来ている。
ビットコイン退職者にとって究極の目標とは?
現時点で、ビットコインは既存の金融システムに組み込まれつつある。他の資産と同様に、ビットコインもハイブリッド型のポートフォリオや税制優遇付きの退職口座に加えるべき「ひとつの構成要素」として扱われている。
しかし、最終的にはブーマー世代よりも若い世代に向けて、より「ブロックチェーン・ネイティブ」な年金システムが登場する可能性が高い。退職者は、スマートコントラクト(自動執行型契約)に基づく「分散型年金制度」を利用することに抵抗がなくなるだろう。
必要なのは機能性だ。例えば、写真を撮ってQRコードをスキャンできるレポートや、ユーザーが意識せずに済む安全な自動バックアップのような機能。誰でも直感的に使えるアクセシビリティ(利便性)がカギとなる。
さらに将来的には、AI(人工知能)エージェントが個々の資産管理を担い、レイヤー2ソリューションであるライトニングネットワークを活用して、超低額手数料かつ即時の送金を実現する時代が到来する可能性がある。このような年金システムが整備されれば、マイクロレンディング(少額融資)、担保付きローン、ステーキングによる利回り運用なども導入され、保有するビットコインを売却する必要性が減り、希少性がさらに強化されることになる。
この構造的転換は関係者全体に恩恵をもたらす。もし、ビットコイン保有者の多くが「売却」ではなく「利回りの獲得」を目的とするようになれば、市場全体における売り圧力が低下し、価格はより安定し、さらには持続的な上昇を促す可能性すらある。
究極的には、ビットコインは「お金」の考え方を単に変えるだけでなく、「退職」の在り方そのものを再定義するポテンシャルをもっている。これまで退職とは蓄積された資産を消費してゆく期間とみなされてきたが、ビットコインを基盤とするシステムにおいては、退職とはむしろ新たな経済的機会の入り口となりえる。そして、その恩恵は、退職者本人のみならず、次世代にも波及してゆくだろう。
本記事はShane Neagleによるゲスト寄稿です。記事内に述べられた意見は、完全に筆者個人のものであり、BTC IncやBitcoin Magazineの見解を必ずしも反映するものではありません。