ビットコインの価格が10万ドルを超えるなか、暗号資産保有者はますます深刻なセキュリティリスクに直面している。主に身代金目的の誘拐や拘束だ。SatoshiLabsとTrezorの共同創設者であるアレナ・ヴラノヴァ氏は、ビットコイナーをこうした物理的な脅威から守るためのトレーニングとテクノロジーを提供する企業「Glok」を設立した。
高まる誘拐リスク
Glok社が「Bitcoin Magazine」に提供したデータによると、2025年の最初の6カ月間で、暗号資産保有者を標的とした誘拐事件数は2024年の全件数を上回った。犯罪者は、従来のデジタルランサムウェア攻撃から物理的な「レンチ・アタック」へと手口を変化させ、被害者にウォレットの認証情報を引き渡すよう強要する事件が多い。特筆すべき事例としては、2025年5月にマンハッタンのアパートで28歳のイタリア人観光客が数週間にわたって拷問を受けた事件が挙げられる。加害者は、ビットコインを奪おうとした暗号資産トレーダーだった。
「もはや、脅威が及ぶのは評判、データ、金銭だけにとどまらない。身体的暴力が蔓延している」と、ヴラノヴァ氏はGlokによる発表の中で述べている。彼女は、「0.5 BTC未満でも標的になるリスクがある」と指摘、現在の0.5 BTC未満に相当する5万ドルを標的とした事件が実際に報告されていることを明らかにした。
「GeminiやCoinbaseなどの取引所からのデータ漏洩により、自宅住所まで記載の220万人を含む、およそ1800万人分の暗号資産保有者の個人情報がダークネット上に流通している。世界には7億~10億人の暗号資産保有者がおり、そのうち70~80%が本人確認(KYC)を済ませている」と、ヴラノヴァ氏は弊誌に語った。
暗号資産関連の誘拐事件の報告件数を国別に分類し人口比で調整すると、もっとも危険な国は香港とアラブ首長国連邦(UAE)で、人口10万人あたりの発生率はそれぞれ0.120件と0.091件だった。弊誌が入手したデータによると、ヴラノヴァ氏曰く「これらの数字はおそらく過少報告である可能性が高い」。
危険に晒されているのは、誰?
取引所でKYCを受けたユーザーは、データ漏洩の影響で特にリスクが高い。ビジネスパーソン、ジャーナリスト、ポッドキャスター、開発者など、ビットコインについて公に語る機会の多い人々も同様に標的となりうる。また、ビットコインへの関心を周囲に共有している愛好家も危険に晒される可能性がある。「実際の暗号資産の保有量よりも多く保有していると思われることも多いが、犯罪者は実態を気にしない」と、ヴラノヴァ氏は説明する。家族が攻撃経路として狙われるケースも頻発しているが、多くの人がこのリスクを見落としている。
ビットコイナーの多くは、伝統的な富裕層がもつような防衛意識を欠いている。ヴラノヴァ氏は、「ビットコイナーは、テクノロジーを過信し、人的要素を過小評価している」と述べ、こうした考え方が物理的なセキュリティへの備えを疎かにさせ、ストレス下でのパニックを引き起こす要因となっていると指摘する。
Glokのサービスとロードマップ
2025年設立のGlokは、物理的なセキュリティを強化するためのトレーニングを提供し、ソフトウェアおよびハードウェア製品の開発も進めている。
現在の主力サービスは、「誘拐対策トレーニング」と暗号資産関連の誘拐のリスク要因を評価できる無料チェックリストになる。
アプリは現在ベータテスト中で、サインアップが可能となっている。
ソフトウェアエンジニアの採用も積極的に行なっており、将来的にはアプリを通じて緊急時に「守護天使(Guardian Angels)」として行動する国際的なコミュニティの構築を目指している。このコミュニティは、ビットコイン保有者を物理的脅威から守るための支援を目的としている。
「いまこそ、『5ドルのレンチ・アタック』というミームを書き換える時だ」と、ヴラノヴァ氏は訴え、備えの重要性を強調した。
