テキサス州のオースティン大学(UATX)は、学問の追求を再発見・再定義している。2021年に設立されたこのスタートアップ大学は、近年の主要大学に顕著な知的ドグマや“woke”の過激化に対抗する方針をとり、起業家精神に重点を置き、技術的かつ文化的に複雑な未来の社会に学生たちを備えさせることに注力している。
この古きよき価値観は、現代の混乱期にあって再燃し、UATXをビットコインへと導くことになった。UATXの寄付金・ビットコイン基金責任者であるアンソニー・J・ロサリオ氏は、「当大学の第一原理は、ビットコインの第一原理と同じ空間、言語、精神を共有しています。つまり、言論の自由、取引の自由、個人および制度の主権、分散型かつ非中央集権的な統治構造です」と「Bitcoin Magazine」に語った。
UATXは、ここ数週間から数カ月にわたり、さまざまなビットコイン関連の発表で注目を集めている。そのなかに、ビットコインの本質と影響について政治的・社会的・経済的観点から論じたエッセイ集『The Satoshi Papers』の出版がある。本書は、アメリカ建国期に広まった『ザ・フェデラリスト・ペーパーズ』を想起させる内容だ。また、全米でも先駆的な存在となるビットコイン基金を発表し、さらにトーマス・L・ホーガン博士が主導するビットコインおよび暗号資産のカリキュラムを備え、学生たちにビットコインの技術と業界に直接触れる実践的な経験を提供している。その反響は大きく、Coinbase社CEOのブライアン・アームストロング氏は最近、「UATXの新卒学生をリクルートする予定」とツイートし、「この大学の文化は、私たちの非政治的文化と非常に合致している。今後、このような非政治的大学がもっと現れることを期待している」とも述べている。
.@coinbase will be recruiting new college grads from UATX when they’re ready (hopefully some interns in the mean time)
It aligns well with our apolitical culture. Let’s hope we see more apolitical universities emerge over time, and a continued shift toward MEI. https://t.co/XZvhv2paI7
— Brian Armstrong (@brian_armstrong) November 25, 2024
キャンセルカルチャーと知的硬直性への抵抗
「当大学の教職員の多くは、以前所属していた大学での知的硬直性やキャンセルカルチャーに疲れ果てて、UATXにやってきました」と、UATXの最高開発責任者(Chief Advancement Officer)であるマギー・ケリー氏は「Bitcoin Magazine」に語った。さらに「キャンセルカルチャーは今日の学界における非常に大きな問題です。私たちは、人々が自由に考え、キャンセルされたり沈黙させられたりすることなく、安心してアイデアを探求できる場を真剣につくろうとしています」と述べた。
UATXは、ジャーナリストのバリ・ワイス氏、歴史家のニール・ファーガソン氏、ベンチャーキャピタリストのジョー・ロンズデール氏、そして当時セント・ジョンズ・カレッジの学長であり、従来型の大学の「非自由主義的」性質を批判していたパノ・カネロス氏によって設立された。
We got sick of complaining about how broken higher education is. So we decided to do something about it.
Announcing a new university dedicated to the fearless pursuit of truth: @uaustinorg:https://t.co/ZqRLXcF2n0— Bari Weiss (@bariweiss) November 8, 2021
UATXの創設学長であり現在は総長を務めるカネロス氏は、2021年に「Free Press」の記事中で、「アメリカの社会科学や人文学系の学者の約4分の1が、移民や性差といったセンシティブな問題に関して『間違った意見』をもつ同僚を追放することを支持している」と語っている。
また、カネロス氏はCenter for the Study of Partisanship and Ideology(党派性とイデオロギー研究センター)の報告を引用しながら、「保守的な立場の学者や博士課程の学生の3分の1以上が、自らの見解のために懲戒処分を受けると脅されたことがあると答えており、アメリカの博士課程の学生5人のうち4人は、保守的な学者に対して差別を行なう意思がある」と指摘した。
異なった思考をすることを恐れず、501(c)(3)の非営利団体でありながらスタートアップ的マインドセットをとらざるをえなかったUATXは、起業家精神、歴史、経済学、そして古典的な西洋哲学思想に強く焦点を当てている。この力強く根本的な思想は、必然的に彼らをビットコインへと導いた。
UATXのビットコイン・カリキュラム
UATXのビットコインおよび暗号資産のカリキュラムは、経済学准教授のトーマス・ホーガン博士が主導している。ホーガン博士は、経済学と学術界での豊富な経験をもち、これまでに銀行・住宅・都市問題に関する上院委員会の主任エコノミストを務めたほか、アメリカ経済研究所(AIER)、ケイトー研究所、世界銀行、メリルリンチの商品取引部門などで活動してきた。
「われわれの入門コースは、知識の習得と実践的スキルの両方を組み合わせたものです。学生たちは、ビットコインの起源やネットワークの仕組み、人権保護におけるビットコインの役割について学びます。同時に、ウォレットのインストール、ビットコインやライトニングネットワークでの取引、自分自身のビットコイン・マイナーの立ち上げなども体験します」と、ホーガン博士は「Bitcoin Magazine」に語った。
ほかのオンライン教材とは異なり、UATXはテキサス州のビットコイン業界との密接なつながりを活かして、テクノロジーにおける個人的かつ実践的な経験を学生に提供している。Hypersphere Venturesのジャック・プラッツ氏は学生にビットコインを寄付し、Cholla Inc、ギデオン・パウエル氏、ブラッド・カディ氏はAntminer S9のマイニング・マシンを寄贈し、学生たちはそのマシンを寮内に設置してマイニング・プールに参加している。ピエール・ロシャール氏はゲスト講師として、ライトニングネットワークのトランザクションについて指導。また、学生たちはテキサス州ロックデールにあるRiot社のマイニング施設(かつてのアルミ精錬工場)を見学するフィールドトリップにも参加した。学生には『Gradually, Then Suddenly』『The Satoshi Papers』『Resistance Money』『The Genesis Block』などの書籍も配布された。
ビットコイン・カリキュラムについての広報はあまりなされていないが、寄付責任者のロサリオ氏は「本カリキュラムは、学生が自分のポイントで授業を選ぶ当校の自由市場型ビッディングシステムにおいて2番目に人気のコースでした。唯一それを上回ったのはナイル・ファーガソンの特別選択講義でした」と明かした。
さらに、ホーガン博士は「ビットコインに加えて、学生たちはほかのトークンやブロックチェーンの特徴についても学びます。スマートコントラクトの基本をプログラミングして展開し、DeFi(分散型金融)やDePIN(分散型物理インフラ)の構築にどう使えるかを探ります」と述べ、暗号学的金融の公開性と検証可能性が「従来の金融システムで頻発する詐欺や腐敗の排除につながると信じている」と語った。
仮想通貨詐欺、ポンジ・スキーム、ミームコイン、ラグプル(突然の運営撤退)など、暗号資産に特有のリスクへの教育的な対応について問われると、ロサリオ氏は「学生たちに詐欺について教える最良の方法は、デジタル資産に限らず彼らのキャリアや人生においても、精神と人格を鍛える知的基盤をカリキュラムの中心に据えることです。UATXの学生は非常に主体的で、単に大学に通うだけではなく、学術機関そのものを構築しようとしています。われわれのスローガンは『真理の追求を恐れないこと』であり、古代ギリシャから現代の哲学者や経済学者に至るまで、西洋思想の知的基盤を教えています。ビットコインと暗号資産を扱う際も、UATXは公平な立場をとります。精神の育成には、多様な思想との触れ合いが不可欠です」と答えた。
ホーガン博士は、従来の金融ネットワークと比較した場合のブロックチェーンの透明性と信頼性を強調した。「不透明な金融企業とは異なり、スマートコントラクトの資金はブロックチェーン上で簡単に検証できます。銀行送金や株式取引が決済に数日かかるのに対して、ブロックチェーン上の取引は数分で検証できます」と述べたうえで、「FTXやセルシウス・ネットワークのような破綻した企業は、ブロックチェーン技術を基盤とした分散型企業ではありませんでした。彼らは従来型の金融会社であり、過剰なリスクや明白な詐欺という古典的な理由で破綻した。ブロックチェーンベースのシステムに移行することで、将来的にこうした崩壊を防げるでしょう」と付け加えた。
ホーガン博士が「Bitcoin Magazine」に共有してくれた、当初の授業スケジュールは以下の通りだ。
パート1:ビットコイン
第1週: ビットコインとブロックチェーンの概要
第2週: ビットコインとライトニングネットワーク(ゲスト講師:ピエール・ロシャール)
第3週: ビットコインと人権(ゲスト講師:クレイグ・ワームキー)
第4週: ビットコイン・マイニングとエネルギー経済
第5週: ビットコインの未来(ゲスト講師:ウィル・コール、パーカー・ルイス)
パート2:暗号資産とブロックチェーン技術
第6週: 暗号通貨とスマートコントラクト
第7週: 分散型金融(DeFi)
第8週: ウェブページとブロックチェーンの相互作用(ゲスト講師:フィル・グリーンワルド)
第9週: ユーティリティトークンと分散型物理インフラ(ゲスト講師:カイル・サマニ)
第10週: 暗号通貨とブロックチェーンの未来
ビットコインと学術的言説:The Satoshi Papers
UATXは、学生にビットコインを教えるだけでなく、学術界におけるビットコインの社会的意義と影響についての議論をリードしている。2025年2月、同大学はテキサス・ビットコイン財団(TBF)による書籍の出版を記念して、学術講演会「The Satoshi Papers Symposium」を開催した。
『The Satoshi Papers』は、TBFのエグゼクティブ・ディレクターであり、ビットコイン・ポリシー・インスティテュート(BPI)のフェローでもあるナタリー・スモレンスキー氏によって編集され、BPIによって出版された。本書は、「個人および地域社会の自由を守るために政府が果たすべき役割についての、18世紀アメリカにおける連邦主義者と反連邦主義者との間の議論」からインスピレーションを得ている。
本書には、経済学者、歴史学者、人類学者、その他の社会科学者など、さまざまな学者による一連のエッセイが収録されており、ビットコイン以後の世界における「貨幣」と「国家」の関係について論じている。
自己保管によるビットコイン寄付基金
教育・学術的な貢献に加えて、UATXはカスタム設計されたビットコイン寄付基金を保有している。他大学の多くがETF(上場投資信託)を通じてビットコインにエクスポージャーをもっているのに対し、UATXは自己保管の重要性を強く信じており、Unchained Capital社との協力によって、マルチシグ(複数署名)ウォレットで資産を安全に保管している。同社は、UATXのビットコイン導入における重要なパートナーだ。
UnchainedのCEO兼共同創業者であるジョー・ケリー氏は、寄付基金の立ち上げとして2 BTCを寄付したという。大学は500万ドル相当のビットコイン基金を積み立てることを目標としており、最低でも5年間はコールドストレージで保管することをコミットしている。
2024年6月に行なわれた発表で、ケリー氏は次のように述べている。「UATXとビットコイン・コミュニティの両者は、未来に向けて革新的な制度を築いています。Unchainedをパートナーに選んだことは、大学がビットコインを自由を守るテクノロジーとみなしていることを示しています。私たちのカストディ(保管)モデルは、UATXの長期的なビットコイン保有において、単一障害点が存在しないよう保証します」。