バーニー・サンダース上院議員(無所属/バーモント州)とエリザベス・ウォーレン上院議員(民主党/マサチューセッツ州)は、米国の退職年金口座にビットコインなどの暗号資産を組み入れる道を拓く規則を撤廃するよう、ドナルド・トランプ政権下の労働省に求めている。この措置について、両議員は労働者の将来の資産形成を危険にさらす一方で、トランプ大統領とその家族の懐を肥やすものだと主張している。
6月1日(米国時間)にキース・ソンダーリング労働長官代行宛てに送付された14ページの書簡の中で、サンダース議員とウォーレン議員は、下院教育労働委員会の筆頭議員であるボビー・スコット下院議員(民主党/バージニア州)とともに、3月に労働省が提示した規則案を非難した。
労働省による規則案は、401(k)プラン(確定拠出年金)の受託者に対して、暗号資産、プライベートエクイティ(未公開株)、プライベートクレジット(非公開債権)といった価格変動性の大きい資産を提供できるようにするものだ。ただしそれは、受託者が、アクセスを提供する前に、関連する要因を十分に検討したことを証明できる場合に限られる。
書簡には「この規則案はアメリカの労働者にとって有害であり、制定法、議会の立法趣旨、既存の規制、そして判例法に反するものである」と記されている。
この規則案がもたらすもの
この提案は、昨年8月にトランプ大統領が署名した大統領令に端を発している。この大統領令は労働省に対して、退職年金制度における代替資産への対応を見直すよう指示していた。現行法の下では、401(k)プランを管理する受託者は、厳格な「慎重性」基準に従うことが義務付けられている。この基準は、1974年制定の従業員退職所得保障法(ERISA)に根ざしており、連邦最高裁判所の判例によって強化されてきた。
民主党議員は、この新たな規則が従来の基準を根底から覆すものだと主張している。従来は、受託者が十分な調査・検討義務(デューデリジェンス)を履行したことを証明しなければならなかった。しかし、この規則案では、受託者が規則で定められた手続きを踏みさえすれば、その義務を果たしたものとみなされるというのだ。
議員らは、この変更は数十年にわたる法的判例と矛盾するものであり、米国の401(k)口座に預けられている推定14兆2000億ドルを、価格変動が極めて大きく、規制監督も限定的な資産に晒すことになると主張している。
金融業界規制機構(FINRA)は、暗号資産への投資について「より伝統的な投資資産と比較して、より高い水準の価格変動を経験している」とし、「投資資金のすべてを失うリスクは大きい」と警告している。また、FBIは 2025年における暗号資産関連詐欺による損失額が110億ドルを超えたと報告しており、これはサイバー犯罪による損失カテゴリーのなかでも最大級の規模となっている。
トランプ大統領の利益相反をめぐる議論
民主党議員らは、退職年金制度の問題にとどまらず、利益相反に関する厳しい懸念も提起した。「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙によると、トランプ大統領の息子たちは一家の暗号資産事業を運営しており、昨年9月にデジタル通貨を発行して以降、トランプ家は推定50億ドルの資金を調達したという。
トランプ家の暗号資産ポートフォリオには、World Liberty Financial社のWLFIトークンおよびUSD1トークンに加え、公式のトランプ・ミームコインも含まれている。このミームコインは、2025年1月のトランプ大統領就任式の際に1トークン当たり75ドルを超える水準まで急騰したが、その後は2ドル前後まで暴落した。
書簡には次のように記されている。「上記で述べた慎重性基準の変更は、トランプ大統領とその家族が、納税者、労働者、退職者の犠牲の上に利益を得る機会を拡大するものである」。
消費者擁護団体であるアメリカ金融改革協会も、同様の懸念を示した。
同団体の上級政策アナリストであるオスカー・バルデス・ビエラ氏は、「401(k)プランにこれらの商品を組み入れることは、労働者の退職貯蓄をポンジ・スキームのような仕組みに変えてしまう危険性があり、新たな資金を求めて必死になっている業界に救いの手を差し伸べることになる」と述べている。
また、この書簡では、高齢者の貧困に関する統計も引用されている。米国では高齢者の22.8%以上が貧困状態にあるのに対して、デンマークでは5.1%、フランスでは5.8%、ドイツでは12.6%にとどまっている。議員らはこの数字を示しながら、大きな投資損失を吸収する余力のない退職者にとって、この問題がいかに重大であるかを強調した。
政権側の反論
トランプ政権はこの規則案を、労働者の選択肢を拡大するための措置として位置付けている。
ソンダーリング労働長官代行は声明の中で、「労働省が勝者と敗者を選別する時代は終わった。われわれの規則は、運用管理者があらゆる潜在的な商品提供を慎重なプロセスに従って評価しなければならないことを明確に規定している」と述べた。
また、スコット・ベッセント財務長官もこの規則案への支持を表明し、「これはトランプ大統領の『黄金時代』到来に向けた、さらなる一歩である」と語っている。