5月19日(米国時間)、ドナルド・トランプ大統領は、連邦準備制度理事会(FRB)をはじめとする金融規制当局に対して、暗号資産企業およびフィンテック企業を長年米国の決済システムから排除してきた障壁を取り除くよう指示する大統領令に署名した。この動きにより、長年にわたって続く対立の中心へ、FRBそのものが置かれることになる。
「金融テクノロジーのイノベーションを規制枠組みに統合する(Integrating Financial Technology Innovation into Regulatory Frameworks)」と題されたこの大統領令は、連邦金融機関のトップに対して、既存の規制を3カ月以内に監査し、フィンテック企業が連邦規制下にある金融機関と提携することを「不当に妨げている」規制を特定するよう求めている。
規制当局は、調査結果に基づいて6カ月以内に措置を講じなければならない。
🇺🇸 トランプ大統領が、仮想通貨企業によるFRB決済ネットワークへのアクセス見直しを指示。
対象はFedwireやFRBマスターアカウントなど、従来は銀行中心だった金融インフラです。
実現すれば、クリプト企業が銀行を経由せず、決済・送金ネットワークへ直接接続できる可能性があります。 pic.twitter.com/2fKp0Yc65U
— Bitcoin Magazine Japan (@BitcoinMagJapan) May 21, 2026
FRB、暗号資産、そして政府による統制
この大統領令の核心は、FRBが管理する「マスターアカウント」の支配権にある。これは、金融システム全体における高額ドル決済を処理するFedwireなどの決済レールに接続するための入り口となるアカウントだ。これまで、このアカウントは認可を受けた預金取扱金融機関にのみ割り当てられていた。そのため、決済システムへ直接アクセスしたい暗号資産企業は、高コストな州銀行免許または連邦銀行免許を取得せざるをえない状況だった。
大統領令はFRBに対して、ふたつの事項を求めている。第一に、その枠組みを非銀行系のフィンテック企業や暗号資産企業にも拡張可能かどうか評価すること。第二に、全米12の地区連邦準備銀行が、ワシントンの理事会の指示なしに、独自権限でマスターアカウント申請を承認または拒否できるのかどうかを明確化すること。
特に後者は、極めて重要な意味をもつ。もし地区連銀が単独で判断可能となれば、暗号資産企業は「より協力的なFRBの支店」を選んで申請できる可能性が生まれるからだ。実際に、それに近い事例はすでに起きている。2026年3月、カンザスシティ連銀はKrakenを運営するPayward社に対し、限定目的型のアカウントを承認した。これにより、KrakenはFRBの決済アクセスを獲得した初の暗号資産取引所となった。
Krakenの共同CEOであるアルジュン・セティ氏は、この取り決めを「暗号資産インフラと国家金融システムの融合」 と表現した。
しかし、この承認はFRBがより包括的な政策枠組みを正式決定する前に行なわれたため、既存の銀行業界団体を激怒させた。米国の大手銀行を代表する銀行政策研究所(Bank Policy Institute)は、このタイミングについて「深刻な懸念を抱いている」と表明している。
この緊張関係こそが、今回のトランプ大統領令によって、いまや公然と議論されることになった問題の核心にある。全米独立地域銀行協会の会長兼CEOであるレベッカ・ロメロ・レイニー氏は、この大統領令によって、銀行と非銀行系事業者の間に存在する「重大な規制ギャップ」が露呈したと述べた。彼女はさらに、FRBはステーブルコイン、マスターアカウント、信託銀行免許の認可に関する新たな政策をいったん停止し、それらが複合的に及ぼす影響を評価すべきだと主張。「同様の活動には同様の規制が適用されるべきだ」と語った。
一方、FRBも非常にゆっくりとではあるが、独自の解決策に向けて動き始めている。2025年12月、FRBは、いわゆる「スキニー・マスターアカウント」構想を公表した。これは、準備預金への利息付与や割引窓口からの借入といった機能を除外したうえで、決済システムへのアクセスだけを提供する制限付き中央銀行口座である。この枠組みは、暗号資産業界と地域銀行の双方から相反する反応を招いており、両者はそれぞれ正反対の方向へルールを推し進めようとしている。
大統領令はFRBに対して、120日以内にホワイトハウスへ正式報告書を提出するよう求めている。この期限設定によって、これまで緩慢に進んでいた規制プロセスは、一気に政治的な問題へと変貌を遂げることになる。つまり、独立性を重んじるFRBという機関に対し、トランプ政権が“カウントダウン・タイマー”を突き付けたかたちだ。