5月14日(米国時間)、米上院銀行委員会はCLARITY法案(デジタル資産市場明確化法案)を15対9の賛成多数で可決し、法案を上院本会議へ進めた。ルーベン・ガイエゴ上院議員(民主党/アリゾナ州)とアンジェラ・アルソブルックス上院議員(民主党/メリーランド州)が、共和党議員全13名に加わるかたちで、この包括的な暗号資産市場構造法案に賛成票を投じた。
CLARITY法案は、デジタル資産取引、ステーブルコイン、仲介事業者に対する連邦レベルの枠組みを構築するための上院版の法案で、米証券取引委員会(SEC)と米商品先物取引委員会(CFTC)の間で監督権限を分割し、取引所、ブローカー、カストディ事業者に対する登録、情報開示、コンプライアンスに関する規則を定めるものだ。現在、同法案は上院農業委員会による関連法案と並行して審議が進められており、本会議での採決前に両法案が統合される見通しとなっている。
ティム・スコット委員長(共和党/サウスカロライナ州)は、今回のマークアップ審議を、暗号資産企業が長年「時代遅れの規則」の下で「規制のグレーゾーン」に置かれてきた状況からの転換点として位置付けた。
スコット委員長はさらに、この法案は消費者を保護し、イノベーションを米国内に留め、「犯罪者、テロリスト、敵対的政権が悪用しようとしてきた扉を閉ざすこと」を目的としていると説明した。なお、同法案は数カ月にわたる超党派協議を経て、当初の草案より200ページ以上も拡張されている。
委員会のデジタル資産パネルを率いるシンシア・ルミス上院議員(共和党/ワイオミング州)は、CLARITY法案を「州政府および連邦政府で数十年にわたり公職を経験したなかで、もっとも困難な法案」と評した。また、この法案を、新しい資産クラスやソフトウェアを従来の市場向けに構築された規制体系へ適合させようとする「初の事例」であると説明した。
BREAKING: 🇺🇸 Senate Banking Committee PASSES the Clarity Act in 15-9 vote.
The bill now goes to the full Senate. pic.twitter.com/TCs6T283y2
— Bitcoin Magazine (@BitcoinMagazine) May 14, 2026
ウォーレン陣営「業界が作成した法案であり、まだ準備不足だ」
委員会の民主党筆頭委員であるエリザベス・ウォーレン上院議員(民主党/マサチューセッツ州)は法案反対の先頭に立った。彼女は、委員会が取り組むべきは食料品価格、医療費、クレジットカードの金利であり、「暗号資産業界が暗号資産業界のために書いた法案」ではないと主張した。
ウォーレン議員はこの法案の草案について、「1929年以来投資家を保護してきた証券法に穴を開けるものだ」と警告。さらに、州レベルの詐欺防止規制を無効化し、銀行が2008年の金融危機以前を想起させるかたちで、高ボラティリティの暗号資産へのエクスポージャーを大量保有できるようにするものだと主張した。
彼女は、この法案は「暗号資産を利用するアメリカの消費者を欺く行為に対して、オープンシーズン(無制限の解禁状態)を宣言するものだ」と述べ、共和党に対して「アメリカ合衆国大統領による暗号資産の詐欺的金儲けを助長する枠組み」を推進していると非難した。
また、ラファエル・ウォーノック上院議員(民主党/ジョージア州)は、自身の反対票について、倫理上の懸念に基づくものだと説明。ドナルド・トランプ大統領のデジタル資産ビジネスとの関係を「純粋な腐敗」と呼び、共和党が大統領や副大統領を含むすべての公職者に適用される強制力ある利益相反規則を拒否していると批判した。
違法金融、ミキサー、ステーブルコイン
国家安全保障上の懸念から、民主党は一連の修正案を提出したが、共和党は11対13の票差でこれを否決した。ウォーレン議員は、暗号資産ミキサーやDeFiサービスに対するより強力な制裁措置を提案し、2022年に財務省がTornado Cashを制裁対象に指定した事例を引き合いに出し、現行法案ではミキサーが法律上明確に規定・区別されていないと警告した。
ジョン・ケネディ上院議員(共和党/ルイジアナ州)は、なぜ新たなマネーロンダリング対策条項がそれらのサービスをすでに対象としていないのかとウォーレン議員に問い質し、その後、共和党議員らとともにこの修正案を否決する票を投じた。
ジャック・リード上院議員(民主党/ロードアイランド州)は、イランの関連主体がステーブルコインを利用して、ドローンの部品を購入したり、機密性の高い物品を輸入したり、ホルムズ海峡を通過するタンカーから通航料を徴収している実態を説明した。同議員は、財務省が依然としてTetherのような発行体に対し「頭を下げて」自主的な協力を求めなければならない状況にあると述べ、外国からの違法なステーブルコイン流入を遮断するための明確な権限を規制当局に与える修正案を提案した。しかし、これも同じく党派間の意見対立により否決された。
クリス・ヴァン・ホーレン上院議員(民主党/メリーランド州)は、昨年、違法行為に関連するウォレットを通じて1500億ドル以上のデジタル資産が流通したとの推計を指摘。さらに、北朝鮮による大規模な取引所ハッキング事件で、DeFiサービスが資金洗浄に利用されたと強調した。
ホーレン議員は、マネーロンダリング、制裁回避、テロ資金供与を明らかに目的としたDeFiプロトコルの公開を違法化する修正案を提出した。しかし、共和党側は既存の刑法ですでに対処可能であると主張し、この修正案も11対13で否決された。
共和党側は、ルミス議員とバーニー・モレノ上院議員(共和党/オハイオ州)を中心に反論した。彼らは、法案の第2条および第3条によって、デジタル資産仲介業者がすでに銀行秘密法(Bank Secrecy Act)の枠組みに組み込まれていると説明。さらに、財務省の「特別措置」権限を拡大し、暗号資産キオスク、ブローカー、取引所を、下院版の法案よりも明確に連邦政府の監督下へ置く内容になっていると述べた。
トランプ大統領、World Liberty、そして否決された倫理条項修正案
トランプ大統領と、World Liberty Financialを含む暗号資産事業との関係をめぐる倫理条項は、もっとも激しい応酬を生み出した。ヴァン・ホーレン議員は、大統領、副大統領、そして連邦議会議員が暗号資産企業とビジネス上の関係をもつことを禁止し、さらに情報開示義務を強化する修正案を提出した。同議員はその必要性について、「大統領およびその家族」が「腐敗した暗号資産関連事業やさまざまな暗号資産詐欺」に関与してきたためだと主張した。
モレノ議員は、この修正案には刑事罰が含まれているため、本来は司法委員会で審議されるべきだと反論。トランプ大統領を「善良な人物だ」と擁護し、裁判記録も存在しない段階で犯罪行為を断定しているとして、ヴァン・ホーレン議員を非難した。この修正案は11対13で否決された。
また、ウォーレン議員は銀行規制当局に対して、ジェフリー・エプスタイン氏に関連する機密監督記録の公開を義務付ける修正案を提出した。同議員は、エプスタイン氏が初期の暗号資産投資を支援していたと主張し、その監督記録によって、彼が主要金融機関を通じて資金を移動させた際に、銀行や監督当局が何を把握していたのかが明らかになる可能性があると主張した。これに対し、ルミス議員は、機密の監督資料は市場構造法案の対象範囲外であると反論。この修正案も否決された。なお、ケネディ議員は「共謀者」という文言がなければ支持していたと述べている。
DeFiのセーフハーバー合意で、民主党内の分裂が露呈
もっとも重要な採決のひとつとなったのは、ルミス議員による修正案122号だった。これはマーク・ワーナー上院議員(民主党/バージニア州)との間で交渉された技術的修正パッケージであり、DeFiプロトコルが「少数のグループによって管理されている」とみなされる条件を精緻化し、法案の中核となるセーフハーバー条項との関係を整理する内容となっている。
ウォーレン議員は、この修正案について「どの事業体が暗号資産仲介業者とみなされるかについて、極めて限定的な基準を設けている」と批判。この修正案が、第604条の「抜け穴」を導入することで、分散型サービスを基本的なマネーロンダリング対策規則から保護するものだと主張した。そのうえで「ルールが存在していても、誰も従わなくてよいのであれば意味がない」と述べた。
2行分を削除する簡単な技術的修正が行なわれた後、委員会はこの修正案を18対6で可決。ワーナー議員、キャサリン・コルテス・マスト上院議員(民主党/ネバダ州)、アルソブルックス議員が共和党側へ加わり賛成票を投じた。この採決は民主党内の明確な分裂を示すものとなった。ウォーレン議員、リード議員、ヴァン・ホーレン議員は妥協案に反対した一方で、「クリプト民主党」と呼ばれるグループは、このDeFiの枠組みを、本会議での採決前にさらに洗練させるための基盤として受け入れた。
どの修正案を審議対象とするかをめぐる手続き闘争
今回のマークアップ審議は、スコット委員長が修正案リストをどれだけコントロールできるかを試す場ともなった。公聴会に先立ち、スコット委員長は、起草上および提出手続き上の問題を理由に、10数件の修正案を審議の対象外とした。そのなかには、全米保安官協会が支持するコルテス・マスト議員による分散型プラットフォームの執行に関する修正案や、地域銀行業界が支持する、リード議員とティナ・スミス上院議員(民主党/ミネソタ州)によるステーブルコインの利回り調整案なども含まれていた。
その後、超党派の合意を目指すなかで、スコット委員長はいくつかの修正案を審議対象へ復活させた。そのなかには、ルミス議員の修正案122号も含まれていた。これは、ワーナー議員やガイエゴ議員といった民主党議員が、これらの妥協案に関する委員会採決が実施されれば、法案支持が得やすくなると述べたためだ。しかし、ウォーレン議員は反発。スコット委員長が共和党側の文言だけを復活させる一方で、法執行機関や地域銀行に関する提案は排除したままだと批判した。
また、ヴァン・ホーレン議員も、適切に起草された自身の修正案の一部が採決へすら進まなかった一方で、以前に却下されたルミス議員の修正案が18対6で可決された点を問題視した。
これに対してスコット委員長は、自身とウォーレン議員の間で、双方からの修正案数の上限を設けることで合意していたと説明。そのうえで、上限の範囲内で、自分は超党派合意を望む民主党議員たちへ配慮する裁量権を行使していると答えた。
ガイエゴ議員とオルソブルックス議員、CLARITY法案に超党派的な支持基盤を与える
審議を通じて、共和党側は業界および穏健派が支持する限定的な修正案を受け入れた。これには、マイク・ラウンズ上院議員によるAIサンドボックス条項やデイブ・マコーミック上院議員によるポートフォリオ・マージン関連条項が含まれており、いずれも民主党側の支持を得て採択された。一方で、共和党側は、制裁措置の拡大、救済措置の禁止、DeFiの責任強化、倫理規定の法案への盛り込みなど、民主党が試みたすべての修正案を拒否した。
最終採決時点で、民主党側は明確に複数陣営に分裂していた。ウォーレン議員、ワーノック議員、ヴァン・ホーレン議員、スミス議員、リード議員は、CLARITY法案を「業界主導で作成された枠組み」であり、執行力を弱体化させ、大統領の利益相反問題を放置するものとして提示する方針を打ち出した。一方、ワーナー議員は重要な条文形成に関与しつつも、今後の審議段階に向けた交渉余地を温存した。
そして、ガイエゴ議員とアルソブルックス議員が決定的な民主党票を提供したことで、党派色の強かった法案は、15対9による超党派委員会可決へと変化した。ただし、同時に両議員は、今後法案が農業委員会版との統合作業へ進み、さらに上院本会議で60票獲得の採決に臨むにあたり、本会議での支持は倫理条項および執行面でのさらなる進展に左右されることになると示唆した。