Bitcoin Policy Institute(ビットコイン政策研究所)は、最新のブリーフにおいて、量子コンピューティング分野における近年の画期的な進歩が、ビットコインの暗号技術が現実味のある脅威にさらされるタイムラインを加速させていると論じた。同研究所は、開発者がすでに解決策の準備を進めている点も強調している。
レポート「State of Play: Quantum Computing and Bitcoin’s Path Forward」では、3月31日にGoogleおよびカリフォルニア工科大学(Caltech)から発表された2つの研究論文を引用した。これらの論文は、ビットコインの暗号を解読するために必要とされる計算能力について、長年の前提を根本から覆す内容となっている。
量子攻撃の「閾値」が大幅に低下
これまで、ショアのアルゴリズム(Shor’s algorithm)を悪用してビットコインのセキュリティを破るには、攻撃者は約1,000万量子ビットを必要とすると推定されてきた。しかし、Bitcoin Policy InstituteがGoogleの知見を分析したところ、その閾値は50万量子ビット未満にまで減少する可能性があることが判明した。さらに、Caltechやカリフォルニア大学バークレー校が関与した別の論文では、特定の量子システムを用いることで、必要条件が1万〜2万6,000量子ビットの範囲までさらに下がる可能性が示唆されている。
Bitcoin Policy Instituteは、これら2つの論文がソフトウェアの効率性とハードウェア設計という異なるアプローチを採りながらも、「量子攻撃に必要なリソース要件は低下している」という同一の結論に達している点に注目している。
理論と現実のギャップ:直ちに脅威となる段階ではない
こうした予測の進展があるものの、Bitcoin Policy Instituteはビットコインが直ちに脅威にさらされているわけではないと明言する。現在の量子コンピュータは、研究で示された水準には依然として遠く及ばない。例えば、Googleの最新プロセッサ「Willow」の性能は100量子ビット強にとどまっており、理論上の必要量と実用レベルの能力との間には、依然として大きな隔たりが存在している。
それでもなお、Bitcoin Policy Instituteは今回の知見を「準備を迅速に継続すべき信号」と位置づけている。レポートでは、量子コンピューティングに付随する長期的リスクに対処するため、ビットコイン開発者コミュニティ内で進行中の取り組みに焦点を当てた。
進行する対策案:BIP-360とQSBの提案
特筆すべきは、プロトコルの歴史上でも極めて活発な開発領域に数えられる「BIP-360」の提案だ。この提案は、トランザクション中に公開鍵が公開されるのを防ぐ新しいアドレス形式を導入するもので、量子攻撃者が悪用しうる主要な脆弱性を排除する狙いがある。
Bitcoin Policy Instituteによると、3月に立ち上げられたテストネットにはすでに50以上のマイナーと100人を超える暗号学者が参加している。この参加水準の高さは、技術的貢献者の間での強力な合意形成を明確に示している。
また、既存のアーキテクチャが備える柔軟性も強調された。2021年にアクティベートされた「Taproot(タップルート)」アップグレードには、代替の執行条件を通じて耐量子検証手法をサポートできる機能が含まれている。
さらにエコシステム外の動向として、米国立標準技術研究所(NIST)が2024年にポスト量子暗号規格を策定したことも挙げられる。これらのツールはビットコインへの転用が可能だ。米連邦政府機関には2035年までの耐量子システム移行が義務付けられており、Googleも2029年までの内部目標を掲げている。
分散型ネットワーク特有の合意形成という壁
Bitcoin Policy Instituteは、ビットコインの分散型構造が特有の課題をもたらすと指摘する。政府や企業とは異なり、ビットコインネットワークはアップグレードを強制することができない。いかなる変更も、参加者間のコンセンサスによって自発的に発生する必要がある。
もっとも、過去のアップグレード実績は、こうした調整が可能であることを証明している。量子セキュリティに関して言えば、全ステークホルダーがシステムの完全性維持に依存しているため、ネットワーク全体のインセンティブは一致しているとBitcoin Policy Instituteは主張する。
結論として、量子脅威は差し迫ったものではないが、タイムラインは確実に圧縮されている。Bitcoin Policy Instituteの視点によれば、技術的な解決策はすでに形になりつつあり、焦点は「ネットワークがいかにして実装に向けた合意に達するか」へと移っている。
なお、直近ではStarkWareのアビフ・レヴィ氏から「Quantum Safe Bitcoin (QSB)」という新たな研究案も発表された。これはネットワークのコアプロトコルを変更することなく、ビットコインの取引を将来の量子攻撃から保護するスキームである。脆弱なECDSA署名からハッシュベースの仮定へとセキュリティの軸足を移すことで、既存システムとの互換性を保ちつつ、ショアのアルゴリズムなどの脅威に備えることを目的としている。