英国は、ウクライナ侵攻後に課された制裁を回避するために暗号資産やオフショア決済ルートを利用しているロシアの金融組織を対象とした、新たな制裁パッケージを発表した。
今回の措置は、クレムリンが支援する「A7ネットワーク」、ルーブル建て決済システム、そしてキルギスやジョージアを経由して送金を行なう複数の取引所や企業を対象としている。
イヴェット・クーパー内務大臣によって発表された制裁パッケージには、英国政府が「ロシアの不正金融ルートの中核」と位置づけるターゲットに対する18件の新たな制裁指定が含まれている。
英国当局によれば、制裁対象には、A7関連の資金フローを扱っている疑いのあるキルギスの銀行、ロシア政府に近い組織に15億ドル以上を送金した世界的な大手暗号資産取引所、さらにロシア向け取引プラットフォームを運営するジョージアの企業3社が含まれている。
西側諸国による制裁が戦時下の自国経済に与える影響を和らげようとするロシアにとって、A7ネットワークは中心的なハブとして台頭している。独立系研究者による調査では、A7は「A7A5」と呼ばれるルーブル連動型トークンを利用した越境型決済プラットフォームで、ロシアの防衛部門を支援する国営銀行のPromsvyazbank(プロムスビャジバンク)とつながりがあるとされている。
英国政府は、A7がこの1年間で900億ドル以上を動かしたと主張しており、当局者はこの金額について、ロシアの年間軍事支出の約半分に迫る規模だと述べている。
ジャーナリストによる別の調査では、A7に関連するウォレットや事業体が、制裁対象のオリガルヒ(新興財閥)や国家とつながりのある企業による越境送金の大部分を処理していることが判明している。
今回の取り締まりは、制裁の圧力下でロシア自身による経済成長見通しが弱まるなかで行なわれた。5月、ロシア経済発展省は2026年の成長率予測を1.3%から0.4%に引き下げ、2027年の予測も2.8%から1.4%へと引き下げた。長期化する軍事支出と貿易制限が、自国の経済拡大にとって重荷になっていることを認めたかたちだ。
ロシアにとって暗号資産が銀行ネットワークの代替に
欧米の当局や暗号資産分析企業は、銀行ネットワークとの断絶を補うためのロシアの取り組みにおいて、暗号資産が主要な手段になっていると警告している。A7A5のような関連プラットフォームやロシアのユーザーにサービスを提供する暗号資産取引所を対象とした調査では、従来の銀行による審査やチェックを回避するかたちで、数十億ドル規模のステーブルコインやトークンの資金移動が行なわれていることが確認されており、その大部分が中央アジアやコーカサス地方の拠点を経由している。
クーパー内務大臣は新たな制裁について、モスクワの戦争遂行を支える資金源を断ち、侵攻の加担者たちの逃避先を閉ざすための、より広範な取り組みの一環であると位置づけた。彼女は、ロシア軍のために資金や物資を動かしている仕組みを暴き、妨害し、解体するために、英国は今後も同盟国と協力してゆくと述べた。
2022年にウクライナへの全面侵攻が始まって以来、英国は、銀行や大手エネルギー企業から防衛関連企業に至るまで、ロシア政府と関係のある3300以上の個人、企業、船舶に対して制裁を科してきた。英国政府の試算によると、国際的な制裁によってロシア経済からは4500億ドル以上が失われており、その損失額はウクライナに対する戦争資金の約2年分に相当すると推定される。