最高値12万6100ドルの熱狂から一転、ビットコイン(BTC)は6万7000ドル付近まで、46%もの急斜面を転げ落ちた。この失速の正体は何なのか。市場では、ネットワークの暗号セキュリティを根底から揺るがす「量子コンピュータの脅威」を指摘する声がある一方で、本質は資本の流動性、つまり「AIへの資金移動」やマイナーの経済環境の変化にあるとする冷静な見方も強い。
量子脅威説という「身代わり」
ポッドキャスト「Unchained」に出演したビットコイン開発者のマット・コラロ(Matt Corallo)は、量子コンピュータへの懸念が下落の主因であるという説を一蹴した。
もし投資家がビットコインの暗号技術に対する差し迫ったリスクを織り込んでいるのであれば、イーサリアム(ETH)が連れ安になるのは不自然だ。事実、ビットコインが最高値から約46%下落しているのに対し、イーサリアムは10月の急落以降、約58%も値を下げている。
コラロは、この並行した弱気相場こそが「ビットコイン固有の量子リスク」という主張を突き崩す証拠だと指摘する。価格低迷の理由を説明するために、一部のホルダーが「量子コンピュータ」を格好の矛先にしているに過ぎない、というわけだ。
もちろん、火のないところに煙は立たない。アセットマネージャーたちがリスク開示を更新し、ブラックロック(BlackRock)がビットコイン現物ETFの登録届出書で「量子コンピュータによる完全性への潜在的リスク」に言及したことも、この議論に拍車をかけた。しかしコラロは、市場のプライシングに緊急性は見られないと反論する。現在のビットコインは、他のセクター、特に「人工知能(AI)」との資本争奪戦の渦中にいるのだ。
マイナーを襲うAIの誘惑
AIインフラには、巨大なデータセンター、特注のチップ、そして膨大な電力が不可欠だ。この資本集約的な性質が、本来デジタル資産に向かうはずだった投資家の視線と資金を吸い寄せている。
マイニングデータもこの逆風を如実に物語っている。ビットコインの採掘難易度(ディフィカルティ)は最近、144.4兆へと急上昇した。15%という増加幅は、中国のマイニング禁止令でネットワークが混乱した2021年以来、最大級の跳躍だ。
ディフィカルティ(採掘難易度)の仕組み ハッシュレートの増減に関わらず、ブロック生成時間を平均10分に保つため、2,016ブロックごと(約2週間)に調整される。
10月に価格が12万6500ドル付近だった頃、ハッシュレートは秒間1.1ゼタハッシュ(ZH/s)でピークに達した。その後、価格が6万ドルまで滑り落ちると826エクサハッシュ(EH/s)まで低下したが、現在は価格の回復とともに1ゼタハッシュ付近まで戻している。
しかし、ハッシュレートが回復してもマイナーの台所事情は火の車だ。ハッシュレート単位あたりの収益を示す「ハッシュプライス」は、1PH/sあたり日給23.9ドル付近と、数年来の低水準に沈んでいる。エネルギーコストの高い業者はマージンを削られ、撤退か、あるいは「変身」を迫られている。
実際に、上場マイニング企業の多くが、その計算リソースをAIやハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)へと振り向け始めている。Bitfarmsは社名から「ビットコイン」の色彩を薄めるリブランディングを行い、Riot Platformsに対しても、アクティビスト投資家がAIデータセンター事業へのさらなる拡張を迫っている。ビットコインは今や、他の最先端テクノロジーと「電力」と「資本」を直接奪い合うフェーズに入ったのだ。
「極限の恐怖」の中での固め
オンチェーンデータは、市場が現在「圧縮フェーズ」にあることを示唆している。Glassnodeの分析によれば、BTC価格はアクティブ供給の平均取得単価を示す「True Market Mean(約7万9000ドル)」を割り込んでいる。
一方で、構造的な下値支持線とされる「実現価格(Realized Price)」は約5万4900ドルに位置する。現在の6万ドルから7万ドルのレンジは、この二つの指標に挟まれた廊下のようなものだ。
投資家心理を測る「恐怖強欲指数(Crypto Fear and Greed Index)」は、数週間にわたり「極限の恐怖(Extreme Fear)」を指し続けている。しかし、Bitwiseの欧州リサーチ責任者アンドレ・ドラゴッシュ(André Dragosch)氏は、世界のマネーサプライ成長やゴールド、ETFへの流入と比較すれば、ビットコインは依然として過小評価されていると説く。
「急激な降伏(キャピチュレーション)の後に、V字回復がすぐに起こることは稀だ。今は危機の最中ではなく、地固めの時期である」
市場の視線は今、FRBの政策を占う米個人消費支出(PCE)物価指数へと注がれている。インフレが高止まりすれば、希少資産としてのビットコインに光が当たる可能性はあるが、タカ派的な反応がドル高を招けば、リスク資産にはさらなる重圧となるだろう。
執筆時点で、ビットコインは6万7000ドル近辺で静かに呼吸を整えている。この沈黙が嵐の前の静けさなのか、それとも次なる飛躍への助走なのか。答えは、量子技術の進歩よりも先に、資本の流れる先が教えてくれるはずだ。
