ビットコインの開発者コミュニティは、量子コンピュータの脅威に対する技術的な解決策をすでに保持している。しかし、より困難な問いは「ネットワークが手遅れになる前に、その解決策に合意できるか」という点だ。ビットコインにおける量子脅威は、本質的に技術的な課題ではなく、政治的な問題なのである。
これは、ナカモト・インク(Nakamoto Inc.)の子会社でビットコイン特化型の投資会社、UTXOマネジメントのベンチャー・アソシエイトであるギヨーム・ジラール氏が発表した最新の解説における核心的な主張だ。「ビットコインと量子の脅威:非専門家のためのガイド」と題された論考の中で、同氏は、暗号解読に有効な量子コンピュータ(CRQC)がビットコインの暗号を破る閾値に達するかは未知数だと述べる一方で、コミュニティの即時行動を促している。プロトコル変更を司るガバナンス・プロセスは、極めて緩慢に進むからだ。
量子耐性への技術的障壁とP2PKの脆弱性
ビットコインのセキュリティは、ウォレットのアクセス権を制御する秘密鍵を保護する「楕円曲線暗号」に依存している。ショアのアルゴリズムを実行する十分に強力な量子コンピュータが出現すれば、公開された公開鍵から秘密鍵を導き出し、大規模な資産奪取を可能にする恐れがある。
Googleの量子AIチームが2026年3月に発表した最新の研究によれば、約50万個未満の物理量子ビットという、従来の推定値を大幅に下回る構成でも暗号解読が可能となる可能性が指摘されている。同社はポスト量子への備えの目標を2029年に設定した。現在、約170万BTCが「P2PK(公開鍵への支払い)」と呼ばれる古い形式のアドレスに保管されていると推定されており、これらは公開鍵が恒常的にオンチェーンで露呈しているため、最も脆弱な標的となる。
検討される解決策:BIP-360と「Hourglass」
ビットコイン・ネットワークには、すでにいくつかの対策案が提示されている。開発者のHunter Beast氏が提案したBIP-360は、「P2MR(Pay-to-Merkle-Root)」と呼ばれる新しいアウトプットタイプを導入し、標準的なトランザクションから公開鍵の露出を排除するものだ。この提案はすでに開発リポジトリにマージされており、現在も活発なレビューが進められている。
これに付随するJameson Lopp氏のBIP-361では、脆弱な署名方式から段階的に移行する3フェーズのマイグレーション計画が示された。ただし、この計画の「フェーズB」では、5年間の猶予期間内に移行しなかったウォレットの資産が凍結される可能性を含んでおり、議論を呼んでいる。
また、「Hourglass(砂時計)」と呼ばれる別の提案は、量子攻撃者による盗難資金の移動を「1ブロックあたり1BTC」などの制限的なバッチに絞り込むことで、経済的ダメージを抑制し、手数料収入をマイナーに還元する仕組みを提唱している。
合意形成の主体:初めて機関投資家が加わる議論へ
最大の問題は、秘密鍵が紛失したウォレットや、サトシ・ナカモトが所有すると推定される約110万BTCなど、移動不可能なコインの扱いだ。ジラール氏は、2つの解決案を提示しているが、いずれも重大な欠点を抱えている。
一つは、期限を設けて量子的に脆弱なアドレスのコインを「バーン(焼却)」する方法だ。これは技術的に有効だが、ビットコインの「中立性」を損なう検閲の前例を作るとの批判が根強い。もう一つの「Hourglass」案は、盗難を許容した上で市場への影響を最小化するものだが、根本的な解決には至らない。
どちらの選択肢も、ユーザー、マイナー、開発者、そして今回初めて、ブラックロック(BlackRock)のような巨大な機関投資家をも巻き込んだ広範な社会的合意を必要とすることになる。
機関投資家によるリスク回避の動き
この議論はもはや開発者コミュニティだけの問題ではない。2026年1月、投資銀行のジェフリーズ(Jefferies)は、ビットコインの暗号基盤に対する長期的な脅威として量子リスクを挙げ、年金モデルポートフォリオからビットコインの配分(10%)をすべて削除した。
一方で、マイクロストラテジーのマイケル・セイラー氏は「ビットコイン・セキュリティ・プログラム」を発表し、量子への備えを「緊急事態」ではなく「エンジニアリングの課題」と位置づけ、セキュリティ界との連携を強化している。シティ(Citi)のサイバーセキュリティ・チームも、仮想通貨全般に対する量子脅威の潜在的な損害額を数兆ドル規模と見積もっている。
ジラール氏は、ビットコインを破る量子コンピュータの登場と、ソフトフォークによる対策実行のどちらが早いかという「時間との戦い」であると結論づけた。現在のデータを見る限り、ビットコインは対策の軌道に乗っているといえる。しかし、機関投資家や国家レベルの買い手が開発の進展を遅すぎると判断した場合、それらステークホルダーは既存の構造を無視して合意形成を加速させる動機と資金力を有している。
ビットコインの主要な買い手は、もはや個人投資家から、不作為を許容しない政府やアセットマネージャーへと移行しつつある。実用的な攻撃までにはまだ数年の猶予があるとの見方が大勢だが、不確実性の霧の中で「確信を持てるまで待つこと」自体が、今や最大のリスクとなっている。
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