序論
ビットコインのマイナー(採掘者)はトランザクション(取引)を収集し、それらをブロック内に記録して妥当性を検証します。そして、その前にあるブロックのヘッダーの暗号学的ハッシュ関数を、新しいブロックに適用します。最後に、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)の問題を解決しようと試みます。サトシ・ナカモトは、「ビザンチン将軍問題」を解決するために、PoWというコンセンサス・メカニズム(合意形成の仕組み)を採用しました。これにより、透明で客観的なプロトコルが確立されたのです。
プルーフ・オブ・ワーク(PoW)とは?
プルーフ・オブ・ワーク(PoW)とは、ネットワークのトランザクションを検証し、新しいビットコインを生成するために計算作業(ワーク)を行なった証明のことです。これは、トランザクションを検証し、ビットコインのブロックチェーンに追加するためにコンピュータの計算能力を使用するコンセンサス・メカニズムおよびアルゴリズムです。この仕組みによって、ビットコイン・ネットワークは信頼でき、かつ分散型の状態を維持することができるのです。
PoWは、ビザンチン将軍問題を解決します。分散型コンピュータ・システムでは、さまざまな理由で合意形成が失敗する可能性があります。これは悪意ある行為だけでなく、ソフトウェアのバグ、ハードウェアの故障、不正を働く者による高度に計画された攻撃などが原因となることもあります。この問題が発生すると、分散ネットワーク上のノード(ネットワークの参加者)が合意に達することが困難になるのです。
ビザンチン将軍問題は、特に分散型システムにおいて発生しやすい問題です。中央管理者がいないため、全員が同意できる状態を形成することが難しくなるのです。
ビットコインは、ノード同士がお互いに信頼し合うことなく、安全に通信し、価値をやり取りできる仕組みを提供することで、ビザンチン将軍問題を解決します。ネットワーク内のノードは、トランザクションの真偽について合意し、それがタイムスタンプ(時刻記録)される前に共有されます。ひとつのノードがトランザクションを記録すると、そのコピーがネットワーク上のすべてのノードに伝播されます。この目的を達成するためにPoWが生み出されたのです。
なぜ、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)は重要なのか?
プルーフ・オブ・ワーク(PoW)は、しばしば誤解されたり過小評価されたりします。多くの人々は「PoWは設計の悪いシステムで、無駄な努力をしているだけ」とも考えています。彼らは、「ほかのデジタル台帳(レジャー)であれば、トランザクションの記録は即座に、かつ労力なしで行なえる」と主張します。しかし、PoWは台帳のセキュリティを維持し、単独の存在からの攻撃によるネットワークの破壊を防ぐために不可欠な仕組みなのです。この「努力」は決して無駄ではありません。なぜなら、PoWは現行の金融システムとそのさまざまな欠陥に対する代替手段としてのネットワークを成立させるからです。
PoWの意義は、ビットコインの生成に対して実際のコスト(計算資源)を要求する点、およびその信用を維持する点にあります。例えば、ビットコイン・ネットワークに対して51%攻撃(マイニング・パワーの過半数を支配することで不正を行なう攻撃)を実行し、偽りのビットコインを作成したり、不正な取引を行なおうとすれば、莫大なコストがかかります。仮に誰かがビットコイン・ネットワークを破壊しようとすれば、過去のPoWをすべてやり直し、かつネットワーク全体のPoWの計算速度を上回る必要があるのです。つまり、ビットコインは「偽造不可能なコスト性(unforgeable costliness)」という特性をもち、一度確定した取引はほぼ変更不可能なのです。
ナカモト・サトシは、PoWシステムの安定性を維持するために、難易度調整アルゴリズム(difficulty adjustment algorithm)というシンプルかつ画期的な仕組みを導入しました。これは、新しいブロックの発見難易度を約10分毎に調整するものです。この仕組みによって、ネットワークにマイナーが増えすぎた場合でもブロックの生成速度が速くなり過ぎるのを防ぐとともに、マイニング活動が減少した場合でも採掘速度が極端に遅くならないように調整されています。
プルーフ・オブ・ワーク(PoW) vs. プルーフ・オブ・ステーク(PoS)
プルーフ・オブ・ワーク(PoW)は、エネルギーを消費することでビットコインのセキュリティを維持し、すべての参加者は固定されたルールを守ることを強いられます。そのルールには、例えば、供給量を増やすために新たなビットコインを発行することはできないといったものがあります。
このように、PoWは安全性を維持するための仕組みであるのに対して、PoS(プルーフ・オブ・ステーク)は、悪意ある攻撃を防ぐ手段をもたず、セキュリティを犠牲にしてスケーラビリティ(処理速度)を優先した仕組みです。その結果、PoSは高速なブロックチェーンを実現する一方で、信頼性には欠けます。ビットコインのPoWコンセンサス・メカニズムは、高いコストがかかりますが、参加者に対して真実のみを記録するインセンティブ(動機)を与える点で重要なのです。
PoSは、多くのアルトコインやデジタル版のペニー株(投機的な低価格株式)、さらにはビットコインの代替手段として売り出されるポンジ・スキーム(ネズミ講的な投資詐欺)にも採用されているコンセンサス・メカニズムです。PoSでは「ステーキング(staking)」と呼ばれる仕組みが用いられます。これは、投資家が特定のプロトコルのトークンをシステム内にロックすることで、そのトークンを使用できないようにする仕組みです。ステーキングの量が多いほど、トランザクションの検証(ブロックの承認)を行なう機会が増えるのです。
しかし、PoSの問題は中央集権性にあります。なぜなら、多くのアルトコインのトークンは、一般公開される前に開発者やインサイダー(関係者)に大量に配布されるからです。この仕組みを考えれば、PoSネットワークがどれほど分散化の理念からかけ離れているかが理解できるでしょう。
PoWとPoSの仕組みの主な違いは以下の通りです。
プルーフ・オブ・ワーク(PoW)
- 検証は、マイナーのネットワーク全体で行なわれる。
- 競争的な仕組みのため、新しいブロックを見つける確率を高めるには多くのエネルギーと計算資源が必要。
- PoWには現実世界での物理的なコスト(計算資源と電力消費)が伴うため、ネットワークは攻撃から守られやすい。
- 経済的・環境的な観点からもPoWにはメリットがある。
プルーフ・オブ・ステーク(PoS)
- 検証は、自身のトークンを担保として差し出す参加者によって行なわれる。
- エネルギー消費は少ないが、新しいブロックを検証できる確率は保有するステーク(トークン数)に依存する。
- PoSには現実世界でのコストが存在しないため、ネットワークが攻撃に対して脆弱になりやすい。
- 環境的なメリットはPoSには存在しない。
PoSでは、ネットワークの51%にあたるステーク(トークン)の取得が比較的容易なので、その結果、プロトコルのルールを自分に有利なように変更することも可能になってしまいます。また、特定のトランザクションを承認しないことで個人や組織の取引を検閲することもできてしまいます。
プルーフ・オブ・ワーク(PoW)の仕組み
かつては、中央処理装置(CPU)やグラフィック処理装置(GPU) を使ってプルーフ・オブ・ワーク(PoW)の計算を行なうことが可能でした。しかし、膨大な電力が必要となるため、現在では特定用途向け集積回路(ASIC) と呼ばれる専用の高性能コンピュータを使わなければマイニングは成立しなくなりました。ASICは、トランザクションデータ(取引情報)、前のブロックのヘッダー情報、ナンス(nonce:ランダムな数値で、正しいハッシュ値を見つけるために調整される)といった情報を入力し、ハッシュ関数を計算して適切な出力を見つけるために使用されます。
ハッシュ関数は数学的な関数で、ビットコインではSHA-256というハッシュ関数アルゴリズムが使用されています。これは、どんなデータでも、0と1のビット列で表現可能な情報を、64文字のハッシュ値に変換するものです。
ハッシュ関数の性質上、入力データがわかっていれば対応する出力データを計算することは簡単ですが、出力データから元の入力データを逆算することはほぼ不可能です。したがって、正しい出力を求めるには、ASICを使って大量の試行錯誤(ランダムなナンスの調整)を行なうしかないのです。
一方で、マイナーは、できるだけ効率よく計算作業を行ない、利益を上げることを目指しています。そのためには、1秒あたりのハッシュ計算回数(ハッシュレート)を増やすこと、できるだけ安価で安定した電力を確保することが重要となります。
また、ビットコインには「難易度調整(difficulty adjustment)」という仕組みがあり、マイニングの競争をより激しくする要因となっています。簡単にいえば、PoWは10分毎に行なわれる宝くじの抽選に参加するようなものです。宝くじを多く買えば買うほど、当選確率は上がります。マイナーはハッシュ計算を行なうことで宝くじのチケットを増やし、当選(ブロックを採掘)する確率を高めます。例えば、Bitmain Antminer S19j ProというASICマシンは、104TH/s(毎秒のテラハッシュ)の処理能力をもっています。これは、1秒間に104兆回もの計算を行なっているということです。
ASICの登場によって、個人のマイナーが単独でビットコインをマイニングすることはますます難しくなっています。特に2012年以降、個人でのマイニングはほとんど採算がとれない状況になりました。しかし、個人のマイナーでもマイニング・プール(Mining Pool)に参加することで、グループ全体でマイニングの成功率を上げることができます。プールに参加すれば、報酬を得る確率は高まります。ただし、報酬はプール内のメンバーで分配されるため、ひとり当たりの報酬額は小さくなります。
メリットとデメリット
プルーフ・オブ・ワーク(PoW)は、ビットコインを安全で、不変で、かつ常に分散型に維持するために不可欠な仕組みです。ビットコインのコンセンサス・メカニズムの主なメリットとデメリットを以下に挙げておきます。
メリット(Advantages)
- 分散化(Decentralization):技術的な大発明であり、中央管理者のいないシステムを実現した。
- 検閲耐性(Censorship resistant):分散化によって、特定の個人や組織がネットワークをコントロールして取引をブロックすることが不可能になる。
- 不変性(Immutability):一度記録されたブロックチェーンのデータは、ほぼ改ざん不可能。
- 公平で客観的なシステム:強固なプロトコルのルールと物理法則に基づいており、恣意的な変更ができない。
- 高いセキュリティレベル:PoWはマイナーに対して経済的インセンティブを与え、ネットワークの保護を促す。
- 二酸化炭素やメタンの回収:ビットコインは、廃棄エネルギーを活用することで、コインの発行や取引の検証を行なうことができる。
- エネルギーのマネタイズ:PoWによって、再生可能エネルギーの普及が加速し、既存の電力グリッドの負荷分散を向上させ、より効率的かつ安全なエネルギー供給が可能になる。
デメリット(Disadvantages)
- 取引速度が遅い:PoWは他のコンセンサス・メカニズムと比べて、トランザクションの承認速度が遅い。
- マイニングにかかるコストが高い:OPEX(運用コスト:電気代やマイニング設備の管理費用)やCAPEX(設備投資:ASICマシンの購入費用)といったコストは高いが、PoWの仕組みを維持するためには必要不可欠。
- エネルギー消費量が多大:ただし、再生可能エネルギーや廃棄エネルギーの活用を促す要因となっており、イノベーションを加速させている。
プルーフ・オブ・ワーク(PoW)に対する批判
ビットコインのエネルギー消費量に関しては多くの批判があります。というのも、ビットコインはネットワークを保護するために大量のエネルギーを必要とするので、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)のエネルギー消費が攻撃の的となりやすいのです。特に、既存の法定通貨金融システムによる利益と密接なかかわりをもつ人々によって批判されることが多いです。
しかし、このような批判は、ビットコインが実際にはクリーンエネルギーの技術革新や廃棄エネルギーの活用を促進しているという事実を見落としています。
では、ビットコインはいかにクリーンエネルギー技術を促進するのでしょうか? ビットコイン・マイナーは、採算を確保するためにもっともコスト効率のよいエネルギー源を探す必要があります。その結果、ビットコイン・マイニングに使われる電力は、化石燃料よりも再生可能エネルギーや廃棄エネルギーにシフトしています。
再生可能エネルギー(Renewables)
風力や太陽光発電などの再生可能エネルギーは、もっとも安価なエネルギー源のひとつです。ビットコイン・マイナーは、これらのエネルギー源の開発を支援し、それを活用することで、再生可能エネルギーの普及を後押ししています。
誤解されがちですが、エネルギー消費そのものが二酸化炭素(CO₂)を排出するわけではありません。CO₂排出の主な原因は、エネルギーの生産方法にあるのです。
廃棄エネルギー(Wasted Energy)
フレアガスは無駄に燃やされる天然ガスのことです。油田などの遠隔地では、天然ガスの輸送コストが高すぎるため、ガスをそのまま放出するか、環境負荷を減らすために燃やして処理(フレアリング)することが推奨されています。しかし、フレアリングを安全に行なうにもコストがかかります。この無駄なエネルギーを使ってビットコイン・マイニングを行なえば、ガスを有効活用しながらビットコインを産出できるのです!
孤立したエネルギー(Stranded Energy)
ビットコインのマイニング施設は世界中どこにでも設置可能です。そのため、人が住んでいない遠隔地の「孤立したエネルギー資源」にも適応しやすいといえます。例えば、海洋の潮流や砂漠の太陽光。バイオガスも、再生可能エネルギーのひとつですが、電力網に接続されていないケースが多くあります。
よくある質問(FAQ)
プルーフ・オブ・ワーク(PoW)の難易度レベルは、どのように決まるのか?
ネットワーク上でマイニングが行なわれる1秒あたりのハッシュ計算回数(ハッシュレート) に応じて、ハッシュ関数の難易度が増減します。これによって、ネットワーク全体で平均10分毎に新しいブロックが見つかるように調整されます。
総当たり攻撃(ブルートフォース)でPoWの問題を解決できるのか?
PoWの問題を解決する唯一の方法は、ブルートフォース(総当たり攻撃) です。ブルートフォースとは、あらゆる可能性のある解を総当たりで試すことで、最適な解を見つける一般的な問題解決手法であり、アルゴリズム的なアプローチです。
すべてのビットコインがマイニングされ尽くしたら、PoWはどうなるのか?
2100万枚すべてのビットコインがマイニングされ尽くした後も、PoWは引き続きトランザクションの検証のために必要です。その際、マイナーたちは新規ビットコインの発行ではなく、取引手数料(トランザクション・フィー) によって報酬を得ることになります。
PoWに代わる有効な仕組みは存在するのか?
ビットコインのような分散型で、不変で、検閲耐性があり、セキュリティの高い暗号資産を実現するためには、PoW以外に安全な代替手段は存在しません。
もし、ふたりのマイナーが同じブロックでPoW問題を同時に解いたらどうなるのか?
最終的には、最長のチェーンに含まれるブロックが採用されます。これは、そのチェーンが「もっとも大きな累積難易度(greatest combined difficulty)」 をもつこと、もっとも多くの計算パワーを費やして生成されたこと、を意味します。
最後に
誤解を招くような発言を意図的に行なう政治家や組織には、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)を批判し、ビットコインのエネルギー消費を非難するプロジェクトに資金を提供することで、見返りがあるのです。その狙いは、ビットコインが人類や地球環境に悪影響を与えるという誤ったイメージを広めることで、既存の金融システムを維持し、自分たちに都合のよい状況を守ることです。
しかし、ビットコインは既存の仕組みを破壊する革新的な存在であり、人類にとって必要な希望でもあります。ビットコインの本質を知り、理解することで、その真価を完全に評価することができます。PoWは新しい金融システムと新たな世界への移行を実現するために不可欠な仕組みであり、この仕組みを生み出すために必要な努力こそが、PoWの価値をさらに高めているのです。