ビットコインが6万ドルを割り、サイクル安値を更新した。価格が大きく動くとき、市場はまず一つの問いに収束する——「何が原因だったのか」。AIなのか、量子コンピュータなのか、Strategyの売却なのか。投資家は犯人を一人に絞ろうとする。
だが、NYDIGのグローバルリサーチ責任者グレッグ・チポラロは、6月上旬のレポートでその問いの立て方そのものに距離を置いている。彼が並べたのは5つの要因だが、強調しているのはむしろ逆のことだ。どれか一つを犯人として選び出せる下落ではない、という点である。これは真犯人を特定する記事ではない。市場がなぜ単一の物語を求めるのか、そしてなぜ今回はその物語が見つからないのかを観察する記事である。
市場が探している「単一の犯人」
チポラロが挙げた要因は、いずれも市場ですでに語られてきたものだ。一つ目はAIへの資本のローテーション。AIとビットコインは、新しい技術への露出と大きなリターンを求める同じ投資家層を奪い合っており、AI関連株が買われるほど資金がそちらへ流れたという見方だ。二つ目は大型テックIPOの待機列——SpaceX、OpenAI、Anthropicといった大型上場を控え、機関投資家が手元資金を厚くするために既存ポジションを削る動きである。三つ目は量子コンピュータ懸念。3月末に公表された研究が、暗号システムを破るのに必要な計算資源の見積もりを前倒しさせた。四つ目はイラン関連の暗号資産およそ10億ドルが米当局に押収されたとされる一件で、これは規模そのものより、政府が暗号資産にどこまで手を伸ばせるのかという問いを投げかけた。そして五つ目が、長く市場の買い手であり続けたStrategyによるビットコイン売却である。
これらに加えて市場では、ETF流出、レバレッジの解消、マクロ環境の悪化といった説明も同時に語られている。並べてみると、原因の候補にはまったく不足がない。問題は、候補が多すぎることのほうにある。
単独では、どれも足りない
ひとつずつ取り出すと、いずれの要因も今回の下落を単独で説明するには小さすぎるか、時間軸が合わない。
Strategyの売却は32 BTC、当時の価格でおよそ250万ドルだった。長年にわたり市場で最も一貫した買い手だった同社の規模からすれば、供給面では誤差に近い。チポラロもこの数字が需給に与える影響は取るに足らないと述べている。重みがあったのは数量ではなく、買い手がいつでも売り手に回りうるという心理のほうだった。
量子コンピュータも、時間軸が今回の値動きと噛み合わない。研究が前倒ししたとされるのは、それでもなお数年先の話だ。耐量子暗号という対策もすでに存在する。数日のあいだに進んだ下落を、何年も先のリスクだけで説明するのは難しい。
AIへの資本ローテーションは、論理としては理解できるが、直接観測できる証拠は限られる。資金がビットコインからAI株へ流れたという因果は、事後的に語ることはできても、リアルタイムで切り分けるのは容易ではない。イラン関連の押収にしても、効いたとすれば規模ではなく、政府の射程という一点においてだった。
つまり、候補を一つずつ机に並べて「これが原因だ」と指させるものは、どこにもない。
五つは、同じ種類の出来事ではない
ここで見落とされがちなのは、五つの要因が同じカテゴリに属していない、という点だ。
AIへの資本ローテーションは、資本がどこへ配分されるかという話である。大型IPOの待機列は、流動性と手元資金の管理の話だ。Strategyの売却は、特定の市場参加者の行動の話。量子コンピュータは、プロトコルそのものにかかる将来のリスク。そしてイラン関連の押収は、国家と規制がどこまで及ぶかという話である。資本配分、流動性、参加者行動、将来リスク、国家リスク——本来であれば、別々の枠組みで論じられる現象だ。
それにもかかわらず、市場はこれらを同じ一つのリストに並べ、「今回の下落の原因候補」として横並びに語る。異なる階層から来た圧力が、価格という一点に同時に投影されると、見かけ上はひとつの出来事のように見えてしまう。
チポラロの言葉は、この構造を正確に言い当てている。単独で見ればどの動きもビットコインに大きな調整を引き起こすには不十分だが、集合として見れば、採用指標の明確な悪化がないにもかかわらず価格が弱含んだ理由を説明できる——彼はそう書いている。重要なのは、これらが足し合わさって一つのメカニズムになったわけではない、という点だ。性質の違う複数の力が、たまたま同じ時期に、それぞれ別の経路から価格に届いた。
別の言い方をすれば、5つの要因は「同じ問いに対する5つの答え」ではない。そもそも違う問いに対する5つの答えだった。資本はどこへ向かうのか。手元資金をどう備えるか。特定の買い手はどうふるまうか。プロトコルは将来も安全か。国家はどこまで手を伸ばすか。問いがそれぞれ別なのだから、答えが一つの像に結ばないのは当然だ。それでもこれらは、「今回の下落の原因」という一つの欄にまとめて投げ込まれる。
今回の特徴は、原因候補が多かったことではないのかもしれない。原因候補が、そもそも互いに異なるものを観測した結果だったことのほうだ。資本配分を見る目と、国家の射程を見る目は、本来は別のレンズである。それを「なぜ下がったのか」という一つの問いの下に束ねたとき、答えは噛み合わないまま積み上がっていく。
オンチェーンが示すのは「底」ではなく「リセット」
オンチェーン指標にも触れておく価値はある。ただし、それは「底」を示す根拠としてではない。
MVRV——市場価格と投資家の平均取得コストの比率——は1.2まで低下した。含み益を抱える供給の割合も、最近50%を割り込んだ。いずれも過去には、市場が大きく底を打つ局面と重なってきた水準だ。チポラロもこれらを、市場が「意味のあるリセット」を経たことの表れとして読んでいる。
ただし、ドローダウンそのものは過去の基準からすれば浅い。ピークだった昨年10月の約12.6万ドルから、下落率はおよそ53%。過去のサイクルで見られた75〜90%の下げと比べれば、まだ穏やかだ。これが意味するのは二つに一つだ、とチポラロは言う。機関投資家の参入がビットコインのサイクル特性を構造的に変えたのか、あるいは市場がまだ本当の投げ売り局面に達していないだけなのか。
底が入ったかどうかは、機関投資家の需要がサイクルを構造的に変えたのか、それとも単により深いリセットを先送りにしているだけなのかにかかっている——彼はそう書いて、判断を保留している。
犯人を一人に絞れないのは、市場が一つの物語を欲しがるからだけではない。原因と呼ばれたものが、そもそも同じ問いへの答えではなかったからだ。私たちは、違う問いへの答えを、一つの原因として読もうとしていた。
異なる主体を平均という一つの数字に混ぜてしまうとき、その平均はどの主体のことも正確には語らない。ただし今回混ざっていたのは主体ではなく、現象の種類だった。
だから、この下落から残るのは犯人の名前ではない。今回の市場には、資本配分をめぐる圧力、流動性をめぐる圧力、特定の参加者の行動、プロトコルの将来リスク、国家の射程という、本来は別々の場所で生まれる圧力が、同じ時期に同時に存在していた。価格が映していたのは、そのうちの一つではなく、五つすべてだった。底がどこかも、誰のせいかも、この観察からは出てこない。出てくるのは、いまの市場がそれだけ多くの異なる圧力を一度に抱えているという、市場の状態そのものである。