新たな準備資産時代の幕開けか? 金から米国債、そしてビットコインへ
米国は長きにわたってドルと米国債を経済・財政・金融戦略の二本柱としてきた。しかし、この伝統的な金融手段がかつての輝きを失いつつあるとしたら、どうなるのだろうか?
ビットコイン政策研究所(Bitcoin Policy Institute:BPI)の政策責任者であるザック・シャピロ(Zack Shapiro)氏によれば、現在の金融システムは歴史的な転換点に差しかかっているという。同氏は「Bitcoin Policy Hour」との最近のインタビューで、「米国が100万 BTCを購入すると発表すれば、それは世界的な地殻変動に等しい衝撃になる」と述べ、「1 BTCの価格は、おそらくすぐに100万ドル水準へと向かうことになるだろう」と続けた。
米国債を準備資産とする体制からビットコイン備蓄への移行という新たな金融秩序は、注意深く観察すればすでにその兆しであるともいえる。ただし道筋はひとつではなく、なかでも金(ゴールド)の果たす役割が大きな不確定要素として市場に立ちはだかっている。
現在、米国が保有する金準備の再評価に関する議論が進んでいる。米国政府が金をいまだに42.22ドル/オンスという旧来の価格で帳簿に記載している点に着目すると、これを現在の市場価格に見合った水準に引き上げることで、約1兆ドルに相当する新たな購買力を得る可能性がある。この莫大な資金を米国はどう活用するのか? BPIの政策提案が正しければ、「戦略的ビットコイン準備令(Strategic Bitcoin Reserve Executive Order)」の趣旨に沿って、予算へ負担をかけずにビットコインを戦略的資産として取得するために活用されるかもしれない。
金は過去の遺産、ビットコインは戦略資産
BPIのエグゼクティブ・ディレクターであるマシュー・パインズ(Matthew Pines)氏は、この選択肢を地政経済的な観点から明確に位置づけている。「戦略的なレバレッジという観点からみれば、金と比べてビットコインがマネタイズされることは、米国にとって非対称的な優位性がある」と、彼は語る。
さらに、パインズ氏は米国と米国民が現在流通しているビットコインの約35%を保有している点に言及。ワシントンにとって、金属通貨ではなくデジタルマネーを選好すべき十分なインセンティブとなる比率だ。
歴史的な信頼性をもつ金であっても、「中央集権化されやすく、輸送コストが高く、21世紀の経済には適合しない」と、パインズ氏は指摘する。多くの中央銀行が、米国債の「武器化」への対抗手段として金を買い増している現状はあるものの、金の準備資産としての実用性には限界がある。
これに対して、ビットコインは迅速かつグローバルに取引でき、流動性も高まってきている。従来型の金融システムが抱える地政学的なボトルネックを回避できる「ネットワーク化された金融エネルギー」としての性質を備えており、まさに現代の戦略的資産といえる。
ポスト・ドル時代はすでに幕を開けている
ドルは依然として世界の基軸通貨としての地位を保っているものの、その土台は脆くなりつつある。シャピロ氏は「トリフィンのジレンマ(基軸通貨の発行国は自国経済と国際経済のバランスを同時に維持することが困難になるという経済理論)」を引き合いに出し、米国が国内経済の安定と国際的な準備通貨供給という相反する要請の間で、ますます難しい選択を迫られていると述べた。2022年にロシアのドル建て外貨準備が制裁によって凍結されたことは、米国資産の中立性に対する世界の信頼を大きく揺るがした。この出来事をきっかけに、各国の中央銀行は金へのシフトを加速させ、一部はビットコインにも資産を移し始めている。
「米国債はもはや中立的な準備資産ではなくなりつつある」と、シャピロ氏は語る。その背景には、米国の国債市場における混乱や、金融力を外交手段として用いる姿勢に対する国際社会の警戒感がある。
それでも、シャピロ氏とパインズ氏は「米国にはまだ強力な手段が残されている」と指摘する。その最有力候補がビットコインだ。もし米国が外貨準備の一部をビットコインに移すことができれば、国債発行、つまり借金への依存度を低下させ、デジタル化が進む世界において非対称的な戦略的優位を確保することが可能になる。また、地政学的な競合相手である中国やロシアに対しても、より強い立場からの対応が可能になるだろう。
戦略的ビットコイン準備は国家の義務となるか?
トランプ政権下におけるビットコイン戦略を指針とする大統領令に基づき、財務省や商務省といった関係機関は、ビットコイン取得に向けた「予算中立的(新たな支出を伴わず既存資産や収入源を活用して実行可能)」な手法の模索をすでに始めている。具体的には以下の選択肢が検討されている。
- 金準備の再評価(1973年以降、法律上固定されたまま)
- 連邦政府が保有する余剰資産の売却(土地、金、電波利用権など)
- 関税収入やロイヤリティの活用
パインズ氏は、この構想の実施に向けた制度的対応の重要性を強調する。「言葉には力がある。それがホワイトハウスから発せられるものであれば尚更だ」と述べ、「ビットコインは戦略的資産であるという大統領令そのものが、世界に対する明確なシグナルになる」と指摘した。
一方で、パインズ氏は官僚機構の「慣性」が大きな障壁となりえると警鐘を鳴らす。「ホワイトハウスが進めたいスピードと連邦官僚機構がそれに追随できるスピードには、決定的なギャップが存在する」と述べ、実行力の差が問題になる可能性を示唆している。
理論から現実へ:米国のビットコイン転換がもたらす世界的影響
もし米国がビットコインの大規模取得に本格的に踏み切った場合、その影響は即時かつ広範囲に及ぶだろう。
「他の国家も、もはや後れをとるわけにはいかないと認識するはずだ。それは、世界中の中央銀行の準備資産戦略を根本から変えることになるだろう」と、シャピロ氏は語る。
その結果、国際的なバランスの再調整が始まる。金や米国債に大きく依存している国々は、自国の資産構成を見直さざるをえなくなるだろう。金のような実物資産への需要は相対的に減少し、ビットコインの正統性と価格は飛躍的に高まる可能性がある。米国内でも連邦政府のバランスシートに莫大な利益をもたらし、次なる金融時代における米国の覇権を再び強固なものにするかもしれない。
ビットコインは、米国の次なる「超大国的レバレッジ」となるか?
シャピロ氏とパインズ氏の見解は一致している。「トリフィンのジレンマ」やこれまでの金融政策の歴史に対する評価がどうであれ、「ビットコインはいまや無視できないほど戦略的な存在である」という点だ。
「ビットコインは不可欠な存在だ。今後われわれが向かう場所がどこであれ、ビットコインはその道を切り拓いてくれるだろう」と、シャピロ氏は断言する。
米国が本当に「金を手放す(dump gold)」ことになるのか、まだ断言はできない。しかし、投資家チャーリー・マンガー(Charlie Munger)氏の有名な言葉を借りれば、「インセンティブをみれば、結果がみえてくる」。米中の地政学的競争、そして米国が国内で大量のビットコインを保有しているという現状を考えれば、金への依存を転換する可能性は十分にある。
投資家や政策決定者たちは同様の「計算」をすでに始めているはずだ。ビットコインに関してよく使われる言葉に従えば、いまこそ「ゲーム理論を受け入れる」ときである。