世界にはおよそ5億人の暗号資産ユーザーが存在するといわれるが、もっとも楽観的に見積もっても、ハードウェアウォレットを使用しているのはわずか2.5%に過ぎない。非常に小さな数字だが、私はその割合がこれ以上高くなくて安心している。
なぜか? 私は、人々が10億単位でビットコインに参加してほしいと考えており、誰もが安全に「セルフカストディ(自己管理保管)」することを望んでいるからだ。この点において、一般消費者向けのハードウェアウォレット産業はその実現を阻む最大の障害のひとつといえる。そして、それは単にビットコインの普及にとっての障壁であるだけではない。もしこの問題を解決できなければ、世界でもっとも人気のウォレットに潜む致命的な欠陥のせいで、分散化革命そのものが危機にさらされるのだ。
ウォレットの進化は足踏み状態
昨年、弊誌のページでリュシアン・ブルドン氏は「ウォレット革命10周年」を祝っていた。ブルドン氏の主張の多くに私は賛同するが、ひとつ明白な見落としがある。現在市場に出回っている、いわゆる「先進的な」一般消費者向けハードウェアウォレットの多くはこの10年間でほとんど革新を遂げていない。そして、すべてのセキュリティ専門家が承知している通り、「絶えず進化していないのなら、それは後退している」のだ。
問題なのは、新たな脅威が絶えず登場しているということだけではない。ビットコインの利用方法自体が急速に進化している点が重要なのだ。ビットコインやその他の暗号資産は、もはや単なる「価値の保存手段」ではない。現在では、より複雑で多様な取引の媒体として活用されている。にもかかわらず、ハードウェアウォレットの基礎技術は、本来の目的である「安全なオフライン鍵保管庫(キーストレージ)」として使われていた当時からほとんど変化していない。同じことはユーザー体験(UX)にも当てはまる。ユーザーはいまだにシードフレーズ(復元用の単語群)を書き留め、保管し、取引を承認するたびに小さな画面を目を凝らして確認することを求められている。
これはビットコインだけの問題ではない。将来的には、誰もがもっとも貴重なデジタル資産や機密データを暗号鍵で守る時代が来る。そのとき、ハードウェアウォレットに内蔵された技術は中心的な役割を果たすことになる。
信頼せよ、でも検証するな(?)
ブルドン氏がビットコインの強さはオープンソース原則への献身にあると強調した点については、確かにその通りだ。しかし、私が強く反対しているのは「ウォレット業界のほとんどがオープンソースを採用している」という彼の主張である。
現実には、主要なハードウェアウォレットはいまなおクローズドソース(非公開)の独自システム上に構築されており、ユーザーは中身を完全に検査することができない。もし検査できないのであれば、検証もできない。検証できないのであれば、なぜユーザーは製造元の主張を信頼しなくてはならないのか?
多くのハードウェアウォレットが依然として「ブラックボックス」である理由は、何か隠しているものがあるからだ、という疑念すら私は抱いている。例えば、ビットコイナーたちが秘密鍵を託しているウォレットの多くが何十年も前に開発されたスマートカード技術をいまなお使用している、という現実がある。この技術は、現在の暗号資産のユースケースにふさわしいとはいえず、ましてや将来の分散型セキュリティ、例えばデジタルアイデンティティやアクセス認証情報など、あらゆるものを鍵で守るような世界に対応できるものでは決してない。
革新と普及を妨げる障壁
ハードウェアウォレットがクローズドかつ独自仕様のシステムに依存し続けていることは、単なるセキュリティ上の悪夢にとどまらない。ビットコインの革新と普及にとっても大きな障害となっているのだ。
現在のウォレットは、実質的に「囲い込み型(ウォールド・ガーデン)」であり、開発者は厳しいルールに従う必要があり、ユーザー向けに自由なカスタマイズを提供することもできない。これは単なる管理体質の問題ではなく、技術的制約に起因している場合が多い。例えば、Ledger(レジャー)のようなデバイスでは、すべてのアプリが「マスターシード(秘密鍵の元になる情報)」へのアクセスを必要とする。これは当然ながら、各アプリが厳格な審査を経なければならないことを意味する(審査を通るかどうかも不透明だ)。
もしこれがApp Storeの仕組みだったとしたら、われわれはいまだにノキア3310をポケットに入れて持ち歩いていることになる。しかし現実には、オープンなエコシステムが生まれ、活発な開発者コミュニティが育ち、競争が起き、そして無数の素晴らしいアプリが誕生した。
私がウォレットに望むのも、まさにこの点だ。開発者が許可不要(パーミッションレス)で開発できるようになれば、新たな機能や優れたユーザー体験が実現可能なだけでなく、ビットコインアプリケーションが日々複雑化するなかで、それらを支え安全性を高めるという点でも、不可欠な役割を果たすことになるだろう。
ウォレットは本来、革新の中心地であるべきだ。開発者が「キラーアプリ」を生み出し、人々がビットコインやブロックチェーンベースのサービスを使いたくなるような場でなければならない。しかし現実には、Ledgerのようなエコシステムは「反App Store(革新に逆行する存在)」であり、分散型イノベーションを推進するどころか、むしろ押しとどめているのだ。
ウォレットを開こう
解決策は、単純かつ不可欠なものである。それは「透明性」だ。強力な暗号技術が公に検証されたオープンソースのアルゴリズムに依拠して安全性を確保しているように、暗号鍵を保管するデバイスもまた同じ哲学に従うべきだ。オープンソースのハードウェアやソフトウェアは、セキュリティ研究者、開発者、さらには個々のユーザーによるセキュリティ対策の監査・検証を可能にし、メーカーの主張に依存する必要を減らし、全体的な信頼性を高める。
より新しく、より安全な選択肢はすでに存在している。オープンソースのマイクロカーネル・アーキテクチャ(小さな中核だけで構成されるOS設計)をベースとしたハードウェアウォレットは、より堅牢なセキュリティ基盤を提供し、その安全性を第三者が独立して検証できるようにしている。このシステムは、いかなる企業もユーザーの暗号鍵のセキュリティを単独で支配できないように設計されており、隠れた脆弱性のリスクを低減すると同時に、革新を促す。
朗報は、現在ハードウェアウォレットを保有している暗号資産ユーザーは40人に1人に過ぎないという点だ。だからこそ、残りの39人に対して、デジタルな未来を自ら安全に保管できる手段をきちんと提供しようではないか。そして、何十億もの人々がビットコインに参加したくなるような革新に向けて環境を整えていこう。
本記事はZack Herbertによるゲスト寄稿です。記事内に述べられた意見は、完全に筆者個人のものであり、BTC IncやBitcoin Magazineの見解を必ずしも反映するものではありません。