ホワイトハウスの連邦政府専属のエコノミストたちは、ステーブルコインの利回りを制限する主要な根拠のひとつに対して疑問を投げかけている。しかも、彼らの分析結果は、すでに法律に盛り込まれている条項と相反するものとなっている。
2025年7月に署名されたGENIUS法は、ステーブルコインに関する初の包括的な連邦法制度を確立した。この法律は、発行体に対して準備資産を1対1で保有することを義務付けている。つまり、流通しているすべてのドルは、国債、現金、マネーマーケットファンド(MMF)といった安全資産によって裏付けられている必要がある。また、この法律には明確な禁止事項も含まれている。発行体はコインの保有者に対して、いかなるかたちであれ利回りや利息を支払うことができないのだ。
少なくともGENIUS法の支持者が説明する限り、その論理は単純明快だ。もしステーブルコインが預金口座と競合する利回りを提供し始めれば、家計は銀行預金からトークンへと資金を移す可能性がある。銀行はその資金源を失い、結果として融資額が減少する。特にウォール街のような大規模な資金調達手段をもたない地方銀行、つまり小規模な金融機関がもっとも大きな打撃を受けることになるだろう。
一部の学術的な分析では、融資の縮小額は最大で1兆5000億ドルに達する可能性があるとされている。この数字は議会での証言や報道で広く取り上げられ、議論の方向性を決定づけた。
ホワイトハウスの経済諮問委員会(CEA)は、この主張を検証するためのモデルを構築したが、その結果は驚くべきものだった。
簡単に言えば、「利回りの禁止は銀行の融資を保護する効果はほとんどなく、一方でステーブルコイン保有による競争力のあるリターンという消費者の利益を放棄することになる」というものだ。
ホワイトハウスがステーブルコインの利回りを検証
現在の条件下では、ステーブルコインの利回りを禁止しても銀行の融資額はわずか21億ドル増加するにとどまり、総額12兆ドルの融資残高に対する変化率は0.02%に過ぎない。一方で福利の観点から見ると、逆の結果となる。消費者は、わずかに低下する借入金利によって借り手が得る利益よりも、“失われた利回り”として8億ドルも多くを失うことになる。
ホワイトハウスのCEAが算出した費用対効果の比率は6.6であり、これは政策のもたらす効果の6倍以上のコストがかかることを意味する。
数値がこれほど小さい理由は、ステーブルコインの準備資産が実際に金融システム内でどのように流通しているかという点にある。家計がドルをステーブルコインに両替しても、発行体はその資金を単に金庫に保管するわけではない。
その大部分は、国債、レポ取引、MMFなどに再投資される。これらのドル資金は、ディーラーや取引相手を通じて銀行システムへと還流する。ホワイトハウスのCEAは3つのバランスシートのシナリオを検証した結果、もっとも一般的なケースでは、銀行システム全体の預金総額は実質的に変化しないことを確認した。資金は再配分されるだけで、消滅するわけではない。
重要な変数は、ステーブルコインの準備資産のうち、実際に貸し出しから完全に切り離される割合である。ホワイトハウスのCEAは、2025年12月時点のCircle社のUSDCに関する準備金レポートに基づき、その割合(モデル内では「シータ」と呼ばれる)を12%と算出した。Tether社は銀行預金として保有している割合がさらに少なく、1470億ドルの準備金プールに対して3400万ドルである。残りの88%のステーブルコイン準備資産は、通常の信用チャネルを通じて流通している。利回りの禁止は、そもそも大部分が遮断されていなかった資金の流れを別の方向へ振り向けるに過ぎない。
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理論と現実のギャップ
これまで提示されてきた数兆ドル規模の試算では、ホワイトハウスのCEAが指摘するように、モデリング上の選択によって実態が歪められていた。この推計は、顧客がステーブルコインを購入した際に預金を失うことになる銀行に何が起きるかを計算しただけで、それ以上の計算は行なわなかった。ステーブルコインの発行体が準備資産を投資した際に、その資金を受け取る銀行やディーラーに何が起きるかはモデル化されていなかった。完全なモデルにおいては、資金を受け取る銀行は規模を拡大する。したがって、システム全体の融資に対する純効果ははるかに小さくなる。
また、ホワイトハウスのCEAは現在の金融環境がこの影響をさらに緩和していることも明らかにした。現在、銀行は規制上の最低基準を1兆1000億ドル以上も上回る余剰流動性を保有している。預金が金融機関の間で再分配されたとしても、どの銀行も余裕があるため、貸し出しを縮小せざるを得ない状況にはならない。もし連邦準備制度が過去のように準備金が逼迫した状態で運営されていたならば、状況は一変していただろう。
そのようなシナリオでは、このモデルは利回り禁止措置によって5310億ドルの追加融資が見込まれるとしている。しかし、この数値に到達するためには、以下の4つの条件が同時に成立する必要がある。すなわち、ステーブルコイン市場が現在の相対的な規模の6倍に成長すること、すべての準備資産がロックされた預金に移行すること、ステーブルコインと普通預金口座の代替関係が推定値の上限に達すること、そして、連邦準備制度が現在の枠組みを放棄することである。
ホワイトハウスのCEAは、この組み合わせを「ありえない」と評している。
まだ誰も塞いでいない“抜け穴”
ホワイトハウスの報告書が率直に指摘している、ある複雑な点がある。GENIUS法における利回りの禁止規定は、完全には効力をもたない可能性がある。同法は発行体が保有者に直接利回りを支払うことを禁止しているが、第三者が支払うことまでは禁じていないのだ。
例えば、 Coinbase社は自社のウォレットでUSDCを保有する顧客に対して「USDCリワード」を提供しており、これはCircleとの収益分配契約に基づき賄われている。2026年2月時点では、これらのリワードは高利回り貯蓄口座の利率と同等であり、どちらも最終的には米国債の利回りを通じて還元される。
現在提案されているCLARITY法案の一部のバージョンでは、この経路を遮断するために、仲介業者が保有者に利回りを還元すること自体を禁止する可能性がある。しかし、このようなより厳格なアプローチが政治的および法的な審査をクリアできるかどうかは、依然として不透明だ。
また、ホワイトハウスCEAの報告書は、これまでの利回り禁止をめぐる議論でほとんど無視されてきた側面、すなわちステーブルコインが米国以外でどのような役割を果たしているかという点にも言及している。ステーブルコイン取引の80%以上は国際的に行なわれており、その原動力となっているのは、通貨が不安定な国や銀行サービスへのアクセスが限られている国の利用者で、彼らはドルに連動したトークンを貯蓄手段として保有している。
ステーブルコインの発行体はすでに、サウジアラビアのような主権国家を上回る規模の米国債を保有している。国際決済銀行(BIS)の調査によると、ステーブルコインへの資金流入は短期米国債の利回りを押し下げる効果があり、これは米国政府にとって低コストの資金調達を支える構造的要因となっている。利回りの規制は、ステーブルコインの普及を阻害することで、この効果を抑制することになる。
ホワイトハウスのCEAはこの海外需要チャネルを定量的には評価していない。しかし、このことは利回りを禁止する合理性をさらに疑問視させる要因となる。国内の銀行融資が得るであろうわずかな利益は、連邦政府自身の借入コストの上昇によって相殺される可能性があるからだ。