ウォール街における新しい種類の証券はわずか2年足らずで実験的な試みから数十億ドル規模の市場へと成長したが、BitcoinTreasuries.Netが6月に発表した調査レポートは、その拡大はまだ始まったばかりだと論じている。
このレポートは、分散型金融(DeFi)プロトコルのApyxと共同で作成されたもので、上場企業が発行し、保有するビットコインを裏付けとする優先株式の台頭を追跡・分析している。現在、このような優先株式の時価総額は約130億ドルに達している。この数字は、世界全体で約1兆3000億ドル規模とされる優先株式市場の約1%に相当する。レポートの執筆陣は、この割合が2030年までに3~5%へ拡大し、その後は最大10%、つまり約1300億ドルに達すると予測している。
この金融商品は、ビットコインを財務資産として保有する企業が直面している資金調達上の課題の中心に位置している。マイケル・セイラー氏率いるストラテジー社のような企業は、既存の普通株主の持ち分を希薄化させることなく、また返済期限が定められた負債を増やすことなく、ビットコインをさらに購入するための長期資金を確保したいと考えている。しかし、ビットコイン価格の大きな変動は、このバランスをとることを困難にしている。
ビットコインは2025年10月に12万4720ドル付近で取引されていたが、2026年6月中旬には6万ドルを下回る水準まで下落し、8カ月間で約47%下落した。
優先株式は、この問題を回避する手段となる。企業が優先株式を発行しても、普通株式の発行済み株式数は増加しないため、既存株主は持ち分の希薄化を回避できる。また、優先株式は負債ではなく純資産として分類されるため、満期日がなく、元本の返済を強制されることもない。その代わりに、優先株主は普通株主よりも優先して配当を受け取る権利を得る。
ビットコイン価格の上昇による利益を直接享受できないインカム重視の投資家にとって、この仕組みは、ビットコインの価格変動を利回りを生み出す金融商品へと変換する手段となる。
優先株式がビットコイン市場の拡大を後押し
これらの優先株式の利回りは、一般的な債券市場の商品をはるかに上回っている。米国で発行されている主要なビットコイン担保型優先株式5銘柄の実質利回りは10.8〜15.2%となっており、高金利普通預金口座の金利3〜4%を大きく上回る。
市場の大部分を占めているのは、ストラテジーが発行する優先株式だ。「STRF」「STRC」「STRK」「STRD」の4銘柄を合わせた時価総額は約125億ドルに達している。一方、資産運用会社からビットコイン・トレジャリー企業に転身したStrive社は、5つ目の優先株式となる「SATA」を発行しており、その時価総額は約3億3000万ドルとなっている。
このレポートの中核となる主張は、需要が供給を上回っているという点だ。投資信託、銀行、年金基金、保険会社といった固定利回り商品を運用する機関は、10兆9000億ドル相当の米国債を保有している。この資金プールのうち、わずか10~20ベーシスポイントの資金がビットコイン担保型優先株式へと移動するだけでも、109億〜218億ドルの新たな需要が生まれる計算となり、それだけでレポートが示す短期的な市場規模予測を裏付けるのに十分だとしている。
ただし、供給量は担保として利用可能なビットコインの量によって制限される。現在流通している約2000万 BTCのうち、暗号資産取引所、現物ETF(上場投資信託)、マイニング企業が保有するビットコインは、顧客資産または事業運営上の準備資産であるため、担保として利用できる対象から除外される。
その結果、担保として利用可能なのは、企業の財務資産として保有されている約126万 BTCで、その価値は約830億ドルに相当する。そのうち、ストラテジーだけで約84万5000 BTCを保有しており、全体の67%を占めている。
レポートでは、この商品の安全性を裏付ける最大の特徴として、「担保カバー率(Collateral Coverage)」を挙げている。ビットコイン担保型優先株式は、3.8倍から4.5倍の担保カバー率を維持しており、これは発行企業が優先株式1ドルに対して3.80〜4.50ドル相当のビットコインを保有していることを意味する。
比較対象として、2025年第3四半期における大手銀行の住宅ローンでは、住宅価値1ドル当たり76セントを貸し出す水準が中央値だった。 Striveの最高リスク責任者であるジェフ・ウォルトン氏はレポートの中で、「この金融商品は、将来のキャッシュフローではなく、実際の資本によって裏付けられているため、市場に出回っている95%以上の債券よりもはるかに安全性が高い」と述べている。
ただし、すべての企業が優先株式を発行できるわけではない。ウォルトン氏は、シニア担保付債務が存在しない健全なバランスシート、1億ドル以上の発行に耐えられる企業規模、そして、税務処理や財務制限条項の設計、配当政策に精通した経営チームという3つの要因を発行企業に求められる条件として挙げている。
ウォルトン氏によれば、すでに担保として差し入れられているビットコインは優先株式よりも優先順位が高いため、そのような状態では多くの発行案件は成立しない。Strive自身も、1月に2億2500万ドル規模の「SATA」発行によって、Semler Scientific社の買収時に引き継いだ負債を返済した。その結果、同社が保有するすべてのビットコインは無担保の状態となっている。
この商品のリスクは、隠れたものではなく、構造的なものだ。ストラテジーの普通株式「MSTR」は、ビットコインのボラティリティをさらに増幅する性質をもっており、過去1年間ではビットコイン以上に大きく下落している。 Primitive Ventures社の投資パートナーであるトニー・ラウ氏は、「ビットコイン価格が下落すれば、ストラテジーの株価はそれ以上に大きく下落するだろう」と、株価が連鎖的に下落する可能性について説明した。
また、ストラテジーの発行した優先株式4銘柄のうち3銘柄は、額面100ドルを下回る価格で取引されている。さらに、配当の支払い自体も、同社がビットコイン価格の上昇を背景に継続して資金調達できるかどうかに左右される。もっとも、ストラテジーとStriveの両社はいずれも、少なくとも12カ月分の配当を支払うのに十分な現金準備を保有していることを明らかにしている。
ストラテジーのCEOであるフォン・リー氏は2月に投資家に対して、「当社のバランスシートは、ビットコイン価格が8000ドルまで下落し、その水準が5~6年間続かない限り耐えられる」と説明している。
現時点で、このレポートはビットコイン担保型の優先株式を「0から1への転換期」にある金融商品として位置付けている。つまり、市場の需要が発行可能な供給量を上回っており、その需給ギャップが、この新しい商品を開発し提供できる企業に有利に働く市場であるという見方を示している。