6月18日(米国時間)、米連邦準備制度理事会(FRB)は決済用ステーブルコインの発行体に対して、書面による顧客本人確認プログラム(CIP)の維持を求める規則案を提案した。これは、規制当局が来年1月の法定期限までに規則の最終決定を急ぐなか、ワシントンがデジタル資産市場を、従来型の銀行に長年適用されてきたマネーロンダリング対策と同じ規律の下に置こうとする動きである。
この提案では、「認可決済用ステーブルコイン発行体(PPSIs)」と呼ばれる事業者に対し、新規顧客が口座を開設する前に、氏名または法人名、生年月日または設立年月日、住所、政府発行の身分証明書番号を取得することを義務付ける。
このFRBの枠組みは、銀行、証券会社、投資信託会社、先物取引業者などが20年以上にわたり遵守してきたCIP義務を踏襲するものだ。規制当局は、この提案について60日間にわたり一般からの意見募集を行なう予定だ。
FRBの今回の措置は、ドナルド・トランプ大統領が2025年7月に署名し成立した「GENIUS法(正式名称:Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act)」によって開始された一連の規制の流れに続くものだ。
この画期的な法律は、ステーブルコインに関する初の連邦規制制度を創設し、流動性資産による100%の準備金の裏付けを義務付けるとともに、発行体を初めて米国銀行秘密法(BSA)の適用対象とした。
また、同法はステーブルコインの発行体に対し、実効性のあるマネーロンダリング対策プログラム、制裁措置遵守プログラム、および顧客本人確認プログラムを構築することを義務付けている。GENIUS法は、2027年1月18日、または主要な連邦規制当局が最終施行規則を公表してから120日後のいずれか早い日に発効する。
FRB理事会はステーブルコインに対して慎重姿勢
FRBのマイケル・バー理事は、他の理事たちがデジタル資産に対してこれまで以上に前向きな姿勢を示すなか、規制当局内でもっとも慎重な声を上げてきた人物として注目を集めている。バー理事は3月にワシントンで開催された「The Federalist Society」の会議で講演し、ステーブルコインには準備資産の質、規制アービトラージ、マネーロンダリング対策上の抜け穴、金融安定性に関する重大なリスクが存在すると警告した。そして、これらの懸念はGENIUS法の主要条文だけでは解決されないと主張した。
バー理事は18日の声明で、「一部のデジタル資産サービスプロバイダーは、自国の管轄区域においてマネーロンダリング対策(AML)およびテロ資金供与対策(TCF)の要件の対象となっているものの、悪意ある行為者がこれらの規制を回避し、デジタル資産取引において摘発されることなく活動することはあまりにも容易である」と述べた。
かつてFRBにおける銀行監督の最高責任者を務めたバー理事は、法律の意図を執行可能な保護措置へと具体化するには、詳細な規則制定こそが極めて重要な手段であると主張している。
18日に発表された提案は、複数の政府関連機関による一連の規則制定の最新事例である。2026年4月には、米財務省の金融犯罪取締ネットワーク(FEN)と外国資産管理局(OFAC)が共同で規則案を公表し、PPSIsに対して、文書化されたAMLおよびTCFに関するプログラム、さらに包括的な制裁遵守体制の導入を義務付けることを提案している。
この規則案では、PPSIsを既存の「資金サービス事業者(MSB)」のカテゴリーから切り離し、BSAの適用対象となる独立した金融機関カテゴリーとして扱うことになる。これは重大な制度的変更となる。というのも、金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)の調査によると、認識されているステーブルコイン発行体の約半数が、そもそもMSBとして登録されていないことが判明しているからだ。
連邦預金保険公社(FDIC)と通貨監督庁(OCC)もそれぞれ並行して、認可制度、準備金、自己資本要件、償還基準などを対象とする独自の規則案公表通知を発表している。18日に発表されたCIPに関する提案は、これらのAMLや制裁措置に関する規則とは別個のものであり、それらを補完する追加的な規則制定案である。
ステーブルコイン規制と微妙な論点
提案されている顧客本人確認要件には、ステーブルコイン市場向けに調整された技術的なニュアンスが含まれている。銀行とは異なり、PPSIsは、発行体から直接コインを取得した顧客だけでなく、二次市場(流通市場)でコインを取得した保有者からも直接償還の請求を受ける可能性がある。
この点に対処するため、提案では「アカウント(口座)」の定義にその償還行為を含めている。つまり、ある個人が取引所でステーブルコインを取得し、その後発行体に対して直接償還を求めた場合、そのやり取りがなされた時点でCIPの義務が発生することになる。
一方で、PPSIsが直接の取引相手ではない純粋な二次市場での取引(スマートコントラクトを介して行なわれる送金を含む)については、提案されている枠組みの下ではアカウント関係とはみなされない。
最終規則の策定スケジュールは非常にタイトだ。GENIUS法は、関係当局が最終規則を公表してから最短で120日後に発効する可能性もあるため、意見募集、改訂、採択までに残された期間は限られている。最終的なCIPルールは2027年より前には施行されない見込みであり、そのため顧客本人確認の制度的枠組みが完全に整備される前に、法律そのものが施行される可能性があるのだ。