2億6300万ドル(約400億円)相当、4,100BTCが奪われた大規模な暗号資産盗難事件。その資金洗浄に関与したとして、22歳のエヴァン・タンゲマン被告が有罪を認めた。ソーシャルエンジニアリングを駆使した組織的犯罪の一端が、法廷で明らかになりつつある。
カリフォルニア州ニューポートビーチ在住、22歳のエヴァン・タンゲマン。連邦検事局が月曜に発表したところによれば、彼は犯罪組織のために350万ドル(約5億2000万円)相当の暗号資産を洗浄した事実を認めたという。タンゲマンはコリーン・コラー・コテリー連邦地裁判事の前で、RICO法(Racketeer Influenced and Corrupt Organizations)違反の共謀罪について有罪を答弁。判決は2026年4月24日に言い渡される予定だ。本件捜査において有罪答弁を行ったのは、彼で9人目となる。
裁判所は第2次修正起訴状も公開し、新たに3名の被告を追加した。「Nic」あるいは「Souja」ことニコラス・デレケイブ、「Krust」ことムスタファ・イブラヒム、そして「Danny」あるいは「Meech」ことダニッシュ・ズルフィカール。彼らもまた、通称「SEエンタープライズ(Social Engineering Enterprise)」の一員としてRICO法違反に問われている。デレケイブは12月3日にマイアミで逮捕され、他2名はドバイでの身柄拘束となった。
検察当局によれば、組織の活動開始は2023年10月。その起源はオンラインゲーム上のコミュニティにあったという。ゲームを通じて結びついたネットワークは、カリフォルニア、コネチカット、ニューヨーク、フロリダ、さらには海外へと広がり、巨大な犯罪組織へと変貌を遂げた。
巧妙化する犯罪手口の実態
手口は分業化され、極めて組織的だ。データベースハッカーが富裕層を特定し、実行犯が動く。
- ハッカー: 盗み出したデータベースから標的を選定。
- 架電担当: 取引所スタッフやメールプロバイダーになりすまし、巧みな話術で認証情報を聞き出す。
- 侵入犯: 物理的に被害者宅へ押し入り、ハードウェアウォレットを強奪する。
タンゲマンの役割は「資金洗浄」だった。盗まれた暗号資産を現金化し、組織メンバーの潜伏先となる高級賃貸物件を確保する。契約には偽名が使われ、月額家賃が4万ドルから8万ドル(約600万〜1200万円)にのぼるロサンゼルスやマイアミの邸宅が次々と借り上げられた。
最大の被害は2024年8月18日に発生している。共犯のマローン・ラムやダニッシュ・ズルフィカールらが、ワシントンD.C.の被害者を騙し、4,100BTC以上を送金させた。当時のレートで2億6300万ドル。現在の価値に換算すれば3億6800万ドルを超える巨額だ。
タンゲマンはさらに、主犯格のラムが盗難資金から約300万ドルの現金を得る手助けもしていた。ラムが9月に逮捕された直後には、セキュリティカメラのシステムにアクセスし、捜索中のFBI捜査官をスクリーンショットで撮影。仲間に指示を出し、ラムのロサンゼルス宅から証拠となるデジタルデバイスを回収・破棄させようとさえした。
盗まれた資金は、文字通り湯水のように使われた。一晩50万ドルのナイトクラブ豪遊、数千万円クラスの高級時計、デザイナーズブランドの服、プライベートジェット。そして押収された28台以上のスーパーカー。その価格は1台あたり10万ドルから380万ドルに及ぶ。
新たに特定された3名の共犯者
タンゲマンの有罪答弁に伴い、検察は前述の3名に対する起訴内容を公表したが、捜査自体は現在も継続中だ。盗まれたビットコインが回収されたのか、あるいは被害者への返還が見込まれるのか。当局は現時点で詳細を明らかにしていない。
「SEエンタープライズ」の特徴は、高度なハッキング技術よりも、人間の心理を突くソーシャルエンジニアリングに依存している点にある。オンライン上の交友関係から始まった犯行グループ。だが、あまりに派手すぎる散財が捜査当局の目を引く結果となった。
タンゲマンは判決まで保釈されているが、RICO法違反と資金洗浄罪には長期の拘禁刑が科される可能性が高い。司法省は、捜査の進展次第でさらなる訴追もあり得るとしている。
RICO法における共謀罪とは、「エンタープライズ(事業体)」を通じた組織的な犯罪活動への合意を指す。個々の実行行為を全て担っていなくとも、共通の犯罪目的を持っていたことが証明されれば、一連の犯罪全体について責任を問われることとなる強力な法的枠組みだ。