ビットコイン・トレジャリーに関する議論には、もはやほとんどお決まりになっているひとつのパターンがある。ビットコインはハードマネーである。法定通貨は価値が希薄化する。バランスシートにビットコインを保有する企業は、合理的な長期的意思決定をしている。これらはすべて正しい。しかし、もはやどれも興味深い問題ではない。
それよりも興味深いのは、構造的な問題だ。企業はビットコインを保有すべきかどうかではなく、どのような企業が保有すべきなのか、そしてその選択が、好調な市場サイクルだけでなく、市場サイクル全体を通して企業のパフォーマンスにどのような影響を与えるか、という点である。
3つのモデルが登場している。それぞれが異なる確信レベル、異なる資本構成、そして異なるトレードオフを反映している。
- ピュアプレイ企業(純粋なビットコイン投資企業)。資金調達や金融工学などを通じてビットコインを蓄積することを主な目的とし、中核となる事業活動をいっさい行なわない企業。スリムな組織構造と単一のミッションが特徴。
- デジタル・クレジット発行会社。純粋なデジタル投資戦略をもっとも洗練させた企業形態。これらの企業は、ビットコインを裏付けとした金融商品、優先株式、転換社債などを発行し、継続的なビットコイン備蓄のための資金を調達する。規模が拡大すれば、単純なモデルでは達成できない複利的な資産蓄積エンジンを生み出す。
- ビットコイン・トレジャリーを採用する事業会社。実際の収益、実際の顧客、実際の事業活動があり、事業自体との戦略的な関係性を考慮して、ビットコインを長期的な準備資産として保有する企業。
以上3つはいずれも、ビットコイン・トレジャリーのテーゼを正当に体現した企業と言える。しかし、それぞれは同じ目的のために最適化されているわけではなく、その違いは、トレジャリー戦略に関する議論で一般的に認識されている以上に重要である。
ピュアプレイヤーが正しくとらえていること
第一のピュアプレイ企業のケースは、そのもっとも強力なバージョンが実際に説得力をもっているため、真剣に評価されるに値する。
金融工学に特化した企業は、特定の重要な意味において資本効率に優れている。調達した資金のすべてが、事業運営による負担をいっさい受けずに直接ビットコインの蓄積に投入される。その使命は明確であり、組織構造もそれを反映している。投資家にとって、これは透明性をもたらす。資金配分者は自分が何に投資しているのかを正確に把握できる。すなわち、企業レベルでの直接的なビットコイン・エクスポージャーであり、投資理念もシンプルかつ明瞭だ。
第二のデジタル・クレジット・モデルは、これをさらに推し進める。優先株式やビットコイン担保型商品の発行に成功した企業は、ドルあたりで比較した場合に、通常の事業会社では到底実現できないような強力な資金蓄積エンジンを構築している。高度な資本構成が生み出す複利効果は、規模が拡大すれば驚異的なものとなる。これはビットコイン・トレジャリー理論の真髄を体現するものであり、このモデルが指し示す到達点は、この分野に携わるすべての事業者が理解しておくべきものと言える。
前提条件となる問題とその実践的な意味
デジタル・クレジット・モデルには、あまり明確に語られることのない前提条件がある。それは、規模、機関投資家からの信用力、そして市場インフラといった、現在ビットコイン・トレジャリーを構築している企業のほとんどがまだもち合わせていない要素だ。デジタル・クレジットは出発点ではなく、到達点なのである。
そこに至るまでの道のりには中間段階の期間が存在し、その期間においては金融工学の構造が一般的に認識されている以上に大きなリスクを抱えることになる。
- 依拠できる事業収益が存在しない。
- 資金調達能力はビットコイン市場のセンチメントと密接に連動する。
- 市場環境が不利な場合、戦略的な選択肢は狭まる。
- 会社のコスト構造は、資本市場が開放されたままであることに完全依存する。
以上は、このモデルに対する批判ではなく、その道のりを描写したに過ぎない。経営者にとっての課題は、その道のりの途中にあっては、どのような構造が会社にとって最適なのかという点だ。
事業会社モデルが実際に提供するもの
ビットコイン・トレジャリーを有する事業会社は、経営がうまくいっているピュアプレイ企業よりも速いペースでビットコインを蓄積するわけではない。トレジャリーの規模が十分な水準に達すると、事業からのキャッシュフローは蓄積量にそれほど大きな影響を与えるものではない。優位性は別のところにあり、それを明確に述べておく価値がある。
事業運営会社は、ビットコインの取引状況とは関係なく収益を生み出す。その収益が固定費を賄うため、会社は基本的な事業運営の資金を調達するために資本市場が開かれた状況にあり続けることに依存する必要がない。そのため、市場のタイミングではなく、信念に基づいた資本判断を維持しながら、雇用を継続し、顧客にサービスを提供し、一定のペースでビットコインを蓄積し続けることができる。
複利的な効果は次のように作用する。
- 事業収益がコストを賄い、圧力の下でビットコインの保有残高を取り崩すのではなく、市場サイクルを通じてポジションを維持することを可能にする。
- 健全なバランスシートが維持されることで、希薄化の低減、資金調達手段へのアクセス向上、パートナーとの交渉力強化など、将来の資金調達条件が改善される。
- 事業体としての信用力が、現在の運用方針では純粋なビットコイン・エクスポージャーを得られない投資家層にも投資の根拠を提供することで、利用可能な資本基盤を拡大する。
この仕組みはいずれも、好条件の市場環境においてビットコインの蓄積を速めるものではない。しかし、これらが組み合わさることで、企業は直面するあらゆる市場環境において、より強靭な存在へと成長してゆく。
組み込まれたバリュエーション・フロア(評価下限)
ほとんどのビットコイン・トレジャリー企業の評価は、単一の指標によって左右されている。それが「mNAV」、すなわち、企業レベルで保有するビットコインに対して市場が付与するプレミアムだ。市場のセンチメントが強く、資本が流入しているときは、このプレミアムは拡大する。逆に、市場心理が冷え込むと、プレミアムは縮小する。評価は、企業の事業運営によってではなく、市場のビットコインへの投資意欲によって左右されるのだ。
事業会社モデルは、これとは異なる挙動を示す第二の要素を導入する。収益性の高い事業は、収益、顧客関係、および事業実績によって裏付けられた収益倍率(アーン二ングス・マルチプル)をもつ。この倍率は、ビットコインのパフォーマンスが好調なときに劇的に拡大することはないが、市場のセンチメントが悪化しても縮小することはない。これは、mNAV単独では得られない安定性を備えているのだ。
ビットコインの純資産価値(NAV)と事業に対する利益倍率という、このふたつの要素は、連動して動くことはない。そこが重要な点だ。mNAVが縮小するときでも、利益倍率は維持される。これにより、企業は防御可能なエバリュエーション・フロア(評価の下限)を維持することができる。市場センチメントのみに完全に依存する単一要素の評価構造しかもたないピュアプレイ企業には、この評価下限が存在しない。
実務上、これは次の3つの点で重要になる。
- 資金調達。防御可能な評価下限をもつ企業は、ビットコインの市場センチメントが冷え込んでいるときでも、合理的な条件で資金調達を行なうことができる。一方、mNAVが低く、かつ収益要素をもたないピュアプレイ企業は、資金調達の自由度が低い。
- 人材。ふたつの要素からなる価値評価に連動した株式報酬は、完全にビットコインの市場センチメントだけに連動する株式報酬よりも、将来の採用候補者にとってより理解しやすく安定した提案となる。
- 投資家アクセス。多くの機関投資家は、現在の運用方針のもとでは、mNAVのみに基づいて構築された評価には投資することができない。収益要素はそのギャップを埋める架け橋となり、本来であれば確信があっても投資できなかった資本への扉を開くことになる。
この評価下限は、厳しい状況下における単なる安心材料ではない。それは時間とともに複利的に効いてくる構造的な優位性であり、資本基盤を拡大し、人材獲得力を高め、あらゆる市場サイクルを通じて戦略的な勢いを維持することにつながる。
意思決定をいかに行なうか
これら3つのモデルはそれぞれ異なる目的に対応している。適切な枠組みを構築するには、まずいくつかの質問に率直に答えることから始める必要がある。
- 既存の事業はどのようなものか? すでに収益と顧客基盤を確立している企業は、事業会社モデルの基盤をすでにもっている。そうでない企業は、その基盤を構築するか、それともピュアプレイ企業の道に進むのか、選択を迫られることになる。
- スケール拡大への現実的な道筋は? デジタル・クレジット・モデルは、ビットコイン・トレジャリーの理論をもっとも力強く体現しているが、規模と信頼性の構築には時間がかかる。一方、事業会社モデルは、その水準に到達することがなくても、円滑に機能する。
- 投資家基盤はどのような構成になっているか? ピュアプレイ企業の構造は、ビットコインへの直接的なエクスポージャーを求める投資家にとってもっとも魅力的な選択肢となる。一方、事業会社は、投資先が事業運営会社であることを条件とする投資家を含め、より幅広い投資家層にアプローチすることができる。
- 事業のライフサイクル全体を通して、どのような企業を経営したいのか? これがすべての問いの根底にある問いだ。この問いへの答えに基づいて企業構造は構築されるべきであり、その逆であってはならない。
結論
次世代においてビットコインの採用を牽引する企業は、必ずしも同じ姿になるわけではない。デジタル・クレジット発行企業は、ビットコイン・ネイティブな資本市場の最前線で事業を展開することになるだろう。金融工学型のピュアプレイ企業は、確固たる信念をもってその到達点に向けて構築を進めていくだろう。事業運営会社は、トレジャリーと本業が市場サイクルを通じて互いに強化し合うようなビジネスを構築してゆくだろう。
それぞれのモデルは、その理念を真に体現したものだ。このフレームワークの目的は、各モデルの違いを明確に理解できるようにすることであり、経営者が自分たちが実際に構築しようとしているものに合った構造を選択できるようにすることだ。そして、それぞれのモデルを実現するためには何が求められるのかを、明確に理解したうえで選択できるようにすることだ。
問題は、どのモデルがもっとも多くのビットコインを保有できるかということではない。常に問題なのは、どのモデルがあなたが構築しようとしているものに適しているのか、という点である。