CEA報告書の結論:利回り禁止による銀行融資への影響は限定的
米大統領経済諮問委員会(CEA)は4月8日、決済用ステーブルコインの発行体による利回り支払いを禁止した場合の影響をシミュレーションした21ページの報告書を公開した。この分析は、決済用ステーブルコインへの利息支払いを禁じた「2025年GENIUS法」の規定に関連して行われたものだ。
報告書によれば、利回り支払いを禁止したとしても、銀行融資の増加額は約21億ドルにとどまる。これは、12兆ドル規模の融資残高全体のわずか0.02%にすぎない。また、消費者が得られるはずだった約8億ドルのリターンが失われることで、コスト・ベネフィット比は6.6となり、利回り喪失のデメリットが借入コスト低下のメリットを大きく上回ると試算している。
要約すれば、CEAのエコノミストたちは、現在の市場環境においてステーブルコインの利回りが一部のアカデミックな研究で予測されていたような「広範な預金流出」を引き起こす可能性は低い、と結論付けた。
ABAの反論:本当の論点は、利回り付きステーブルコインの大規模化
これに対し、全米銀行協会(ABA)は強く異議を唱えた。CEAの分析は、禁止措置の影響に焦点を当てるという「間違った問い」を立てており、市場が成長した際に利回りを容認した場合の衝撃を軽視しているという。
ABAのチーフエコノミスト、サイ・スリニバサン氏と銀行調査担当VPの王一凱氏は、利回り付きステーブルコインが、特にコミュニティバンクの保険対象預金からの資金移動を加速させる可能性があると警鐘を鳴らしている。
彼らの分析では、決済用ステーブルコインの市場規模が将来的に1兆〜2兆ドルに達するシナリオを想定している。米国債などの安全資産を裏付けとしたトークンが競争力のある利回りを提供すれば、地域の預金にとって直接的な脅威となる。このシナリオでは、安価な資金調達手段が失われることで、単一の州だけでも数十億ドル規模の銀行融資が縮小する可能性があると指摘した。
「資金の再配分」か「地域金融への圧力」か
CEAの報告書は、消費者が現金をステーブルコインに移動させたとしても、発行体がその準備金を財務省短期証券(T-bill)やレポ取引、マネー・マーケット・ファンド(MMF)で運用するため、資金の大部分は銀行システムに還流すると強調している。
この「資金の再配分」により、銀行システム全体の預金総量は概ね維持される。現在、銀行界は1.1兆ドルを超える過剰流動性を抱えており、モデル上はシステム全体の融資能力にほとんど制約は生じないという理屈だ。
しかし、ABAは、この論理は「個別の金融機関」で起きている実態を見逃していると反論する。預金が流出したコミュニティバンクは、よりコストの高い卸売資金による調達や預金金利の引き上げを余儀なくされる。こうした資金調達コストの上昇は、最終的に地域密着型の金融機関を頼りにしている家計、農家、小規模事業者への融資削減や金利上昇を招くことになる。
GENIUS法とCLARITY法を巡る規制の攻防
この議論は、2025年に制定された「GENIUS法」を背景に激化している。同法は決済用ステーブルコインに連邦規制の枠組みを設けるとともに、発行体による利用者への直接的な利回り支払いを禁じた。
ただし、この禁止規定はサードパーティのプラットフォームには適用されない。例えば、Coinbaseが提供する「USDCリワード」のように、準備金の運用益をユーザーに分配する仕組み(高利回り貯蓄口座に近い金利を提供)が存続する余地を残している。
現在提案されている「CLARITY法」の一部修正案では、仲介者が利回りを還元することを禁じてこの抜け穴を塞ごうとしている。CEAはこの動きに言及しつつも、詳細な評価は避けた。一方、ABA側は、利回りの禁止を「賢明なセーフガード」として扱うべきだと主張している。ステーブルコインを決済手段としての役割に留め、預金代替の金融商品へと変貌させるべきではないという立場だ。
ナローバンク化するステーブルコインの行方
双方の議論は、より本質的な問いに突き当たる。利回り付きステーブルコインが、伝統的な信用仲介から資金を吸い上げる「ナローバンク(狭義の銀行)」化を事実上促進しているのではないか、という点だ。
CEAは、準備金が財務省証券などの極めて安全な資産で管理される限り、ナローバンク的な構造は決済システムにとってむしろ安全であると示唆し、短期的な融資への悪影響を軽視している。対してABAは、コミュニティバンクの融資機能を守る策を講じずにこうしたモデルを推進することは、議会が中央銀行デジタル通貨(CBDC)に慎重な姿勢を示している理由を無視するものだと警告した。
現在、ステーブルコイン取引の80%以上が米国外で行われており、発行体による米国債の保有規模は一部の国家を凌ぐほどになっている。報告書も、世界的な需要と米国の借入コストへの影響が、利回り論争において十分に検討されていない論点であると指摘している。