7月14日(米国時間)、米連邦準備制度理事会(FRB)のケビン・ウォーシュ議長は下院金融サービス委員会において、危機が発生した場合でも中央銀行は暗号資産業界を救済しない方針であると語った。この発言は、ウォーシュ議長就任後に初めて行なわれた半期ごとの金融政策に関する議会証言の中でなされたものだ。
このやり取りは、長年にわたり暗号資産に懐疑的な立場をとってきたブラッド・シャーマン下院議員(民主党/カリフォルニア州)が、2008年の金融危機の際にマネー・マーケット・ファンド(MMF)を支援したのと同じように、FRBは経営難に陥ったデジタル資産関連企業を救済するのかと質問したことから始まった。ウォーシュ議長はその前提自体を否定し、「われわれは断じて、救済を行なう組織にはならない」と述べた。さらに「われわれは、暗号資産業界を含め、誰ひとりとして救済する必要のない立場にありたい」と付け加えた。
5月15日に就任し、6月には初めて連邦公開市場委員会(FOMC)を主宰したウォーシュ議長は、この姿勢について自身の経験を踏まえて説明した。
同氏は、ベン・バーナンキ議長の下でFRB理事を務めていた際、2008年の世界金融危機における救済策の設計に携わった。彼は「2008年の金融危機の傷跡はいまも残っている」と述べ、「あのような事態を二度と繰り返したくない」と強調した。また、金融危機後の救済措置はモラルハザードを生み出したと主張し、デジタル資産についても同じような事態を招くことは避けたいとの考えと示した。
長年にわたり伝統的な金融システムの中で正当な地位を確立しようとしてきた暗号資産市場にとって、今回の発言は明確な一線を引くものとなった。暗号資産に理解のある初のFRB議長と評されるウォーシュ議長は、ビットコインを国家が保護すべき対象ではなく、市場の指標としてとらえている。議長指名公聴会では、ビットコインについて「米ドルの代替ではない」と述べる一方で、その価格を金融政策が適切な水準にあるかどうかを測る「温度計」として活用していると説明した。
ウォーシュ議長、GENIUS法の規則策定期限について言及
このウォーシュ議長の警告は、重要な法案の期限を数日後に控えたタイミングで発せられた。2025年に成立したステーブルコイン法である「GENIUS法」を実施するための規則は7月18日の土曜日までに策定される予定となっており、ウォーシュ議長は、期限に間に合うよう提案を公表するために、FRBが「全力で取り組んでいる」ことを明らかにした。
この法律では、ステーブルコイン発行体が破綻した場合、ステーブルコイン保有者は他の債権者よりも優先して弁済を受けることが定められている。また、発行されるすべてのステーブルコインは十分な準備資産によって裏付けられていなければならない。ステーブルコイン市場の規模が3100億ドル近くに達するなか、シャーマン議員は、ある発行体で取り付け騒ぎが発生すれば、その影響が業界全体に波及する可能性があると指摘した。
これを受けて、ウォーシュ議長は、いかなる場合も介入しないという絶対的な約束をすることは避けた。ウォーシュ議長は下院議員たちに対して、FRBは今後4年間にわたり「異常な」リスクを抑制するために行動すると述べ、金融システム全体に及ぶ危機が発生した場合には介入の余地を残す表現をとった。金融メディアの「American Banker」は、ウォーシュ議長が将来的な介入措置について完全には否定しなかったと報じている。
翌日7月15日に開かれた上院銀行委員会では、ウォーシュ議長は銀行規制当局に対し、企業がもっとも規制の緩い監督当局を求めて移動する「規制裁定(レギュラトリー・アービトラージ)」を防ぐために、GENIUS法に基づく規則策定において連携を図るよう強く求めた。
この発言と併せて、ウォーシュ議長はさらに、金融政策におけるFRBの独立性を擁護するとともに、現在約6兆7000億ドル規模となっているFRBのバランスシート(資産規模)を縮小してゆく方針を表明した。
暗号資産業界にとって今回の発言が意味するのは、「市場規律」の時代が到来したということだ。FRBは市場運営のルールを定める一方で、過度なリスクをとった企業は自らの失敗による代償を自ら払うことになる。これまで連邦政府の支援を期待してきた暗号資産業界に対して、ウォーシュ議長のメッセージは「自立」を求めていると言えるだろう。