6月9日(米国時間)、ストラテジー社のCEOであるフォン・リー氏は、同社が2022年以来初めて実施したビットコイン売却をめぐって巻き起こった批判の波に対し、 CNBCの番組「Power Lunch」で、今回の売却は経営上の柔軟性を市場に示すために意図的かつ限定的に行なわれたものであり、ビットコインに対する理念的な方針転換ではないと反論した。
同番組での初インタビューに応じたリー氏は、「私たちは市場に“免疫”をつけ、自分たちのプロセスをテストしたかった。その結果、すべてが問題なく機能していることがわかった」と説明した。
5月26日から31日にかけて、ストラテジーは32 BTCを売却し、約250万ドルを調達した。平均売却価格は1 BTC当たり7万7135ドルだった。この取引は、同社の総保有量のわずか0.004%に過ぎなかったにもかかわらず、過剰なまでに市場に大きな反応を引き起こした。さらに、マイケル・セイラー氏の有名な「けっして売らない」という方針が放棄されたのではないかという議論を再燃させた。
リー氏は今回の売却に関して、信念の変化ではなく、バランスシート管理の観点から慎重に説明した。彼は売却の理由として、ストラテジーが必要な場合には売却できることを示すため、ビットコイン売却を実行するための社内システムが完全に機能していることを確認するため、より低い価格で取得したビットコインについて税務上の損失を計上する機会をつくるため、という3点を挙げた。同社はこれまで、1 BTC当たり1万〜12万5000ドルのさまざまな価格帯でビットコインを購入してきた。
重要な点として、リー氏は今回の売却は財務的な苦境によるものではないと強調。「配当金を支払うためにビットコインを売却する必要はなかった。ほかの資金調達活動を通じて賄うことができるからだ」と語った。売却による収益は、同社の永久優先株であるSTRCの配当金に充当された。
また、リー氏はストラテジーが依然として「買い越し」であることも指摘。実際に、同社は32 BTCを売却したのと同じ期間に、約1500 BTCを追加購入している。
もっとも踏み込んだやりとりとなったのは、ストラテジーがビットコイン準備金をけっして売却しないと約束したと信じていた投資家からの反発について、司会者がリー氏に問いただした場面だった。リー氏は、投資家たちの不満があることは認めたものの、謝罪する姿勢は見せなかった。
彼は「私たちには説明責任を果たさなければならない利害関係者がいる」と述べ、その対象として普通株主、優先株主、債券保有者、そしてビットコイン保有者を挙げた。さらに、「普通株主にとってビットコインを売却することが理に叶うと判断した場合には、私たちは売却するだろう」と付け加えた。
リー氏は、もっとも声高に批判しているのは、個人投資家や永久にHODLするという思想に強く傾倒している「暗号資産アナキスト」であり、同社が直接やりとりしている機関投資家ではないとの見方を示した。
「私たちが話をしている機関投資家たちは、この件で特に動揺しているようには見えない」と、彼は語った。
ストラテジーにとって、今回が初めてのビットコイン売却というわけではない。2022年12月、同社は704 BTCを1 BTC当たり1万6776ドルで売却し、その2日後に810 BTCを買い戻した。これは、暗号資産には株式市場で適用されるようなウォッシュセール規制(税務上の損失計上を防ぐ規制)がないことを利用した、税金対策のための損失確定取引だった。
番組では、リー氏とともに出演していたJefferiesのチーフ・マーケット・ストラテジストであるデイビッド・ゼルボス氏が、ビットコインを取り巻くマクロ経済環境について質問し、伝統的な安全資産全般にも弱さが見られることを指摘した。これに対し、リー氏はビットコインに圧力をかけている3つのマクロ要因として、米連邦準備制度理事会(FRB)による金利政策の不確実性、現在進行中のふたつの世界的な戦争、そして、米国議会で審議中の暗号資産関連法案について規制の明確性が欠如していることを挙げた。
それでも、リー氏はビットコインの長期的な見通しについては強気の見方を維持した。
「ビットコインはインフレに対するヘッジになる。ビットコインはまた、巨大な政府に対するヘッジにもなると考えている」と語り、現在の相場状況について、おそらく周期的な下落局面である可能性を指摘したうえで、4年前の2022年5月に経験した約75%の価格下落局面と似ていると付け加えた。
ビットコインとストラテジー株への売り圧力
いまのところ、市場はそれほど楽観的ではない。6月10日時点でビットコインは約6万1600ドルで取引されており、2025年10月に記録した史上最高値の12万6198ドルから40%以上も下落している。この売りは、ストラテジーによるBTC売却発表と、推定28億〜35億ドルという過去最大規模の現物ビットコインETF(上場投資信託)からの資金流出が重なったことで、さらに深刻化した。その結果、わずか一日で18億ドル相当のロスカット(強制清算)が発生した。
ストラテジーの普通株であるMSTRも同じ下落の流れに巻き込まれている。今週時点で117〜127ドル付近で取引されており、52週高値の457ドルから約67%下落している。
市場の注目を集めた売却の後、ストラテジーはビットコインの購入を再開。6月1日から7日にかけて、平均価格6万5332ドルで1550 BTCを取得した。アナリストはこの動きを、市場の信頼回復に向けた取り組みと評価している。
ちなみに5月末時点で、ストラテジーは総取得原価およそ639億7000万ドルで、84万5256 BTCを保有していた。