従来型通貨の根本的な問題は、それを機能させるために多くの信頼を必要とすることだ。
中央銀行は貨幣価値を毀損しないという信頼に応えなければならないが、法定通貨の歴史はその信頼が裏切られてきた事例に満ちている。銀行もまた、私たちの資金を安全に保管し、電子送金するという信頼の上に成り立っているが、実際は、わずかな準備金しか持たずに、信用バブルの波に乗って貸し出しを行なっている。
―― サトシ・ナカモト、2009年2月11日
昨今、”ビットコイン・トレジャリー企業”なるものが大はやりだ。
こんな逸話がある。おそらくつくり話だろうが、かのアルベルト・アインシュタインは20世紀初頭にスイス特許庁に勤務していた際、「永久機関」を名乗る装置の審査に携わっていたとか。彼は冗談交じりにこう語ったという、「それらが機能しないことはわかっている。愉快なのは、なぜ機能しないのかを解明することなんだ」。
金融版の永久機関もまた、機能しない。だが、私の専門である金融の歴史には、それを試みようとした者たちであふれ返っている。そして、たいていの場合、その精巧な仕掛けが破綻して初めて、われわれはそれが何だったのかを理解するのだ。1720年、サウスシー・カンパニーの重役たちは、英国政府の債務を膨張させるバブルを引き起こし、逃げ切ろうとした。2017年(さらに2022年にも)、シットコイナー(無価値な仮想通貨支持者)や詐欺師たちが永遠に続く暗号資産の富を夢みていた。そう、「今回こそは違う」と考える愚か者はいつも現れるものだ。
もっとも、もし(あるいは、いつか)われわれが正しくて、ビットコインが世界を飲み込んでしまうならば、ハイパービットコイナイゼーション(ビットコインが世界のデフォルトの価値基準になる転換点)の到来によって、いずれ「今回ばかりは本当に違う」時が来るということになる。
2022年4月、いまでは忘れ去られたサム・バンクマン=フリード氏(暗号資産取引所FTXの創業者兼CEO。2022年に経営破綻)がブルームバーグの番組「Odd Lots」に出演した際、彼はイールドファーミングについて「中身のないブラックボックスがどんどん高値で手渡されていくようなもの」と不名誉な喩えをした。これを受けて、マット・レヴィン氏はその説明をこう言い換えた、「つまりあなたは、『まあ、僕はポンジ・スキームのビジネスにいるんだ、しかもけっこううまくいってる』ってことだよね」。
このコメントに対して、フリード氏はまったく冗談抜きに、「その通り。そう、自分はポンジ・スキームを商っていて、それは儲かる仕事だよ」と即答した。
ああ、なんと人の記憶は薄れるのが早いことか。あれからわずか3年後の2025年、われわれは再びポンジ・ビジネスを偉大にしたのである。5月末に開催されたカンファレンス「Bitcoin 2025」で、ビットコイン・トレジャリー企業が大胆かつ攻撃的な金融工学の手法を続々と発表し始めたのだ。
いまや、ビットコインが天高く舞い上がる、あるいは一般大衆にまで広く届く手段は、金融機関からの大脱出や、夢みるサイファーパンク的未来の実現ではなく、極めて投機的でバカげたほど複雑な金融戦略によって、株式や債券をビットコイン購入の資金プールへと変換することだとされている。
「Bitcoin Magazine」のオーナーであるデイヴィッド・ベイリー氏が関与するNakamotoという企業もそのひとつであり、同じく「Bitcoin Magazine」の姉妹企業であるUTXO Managementはいくつものビットコイン・トレジャリー企業に多額の投資を行なっている(あらゆるところに「#ディスクレーマー」付きで)。これらのビットコイン・トレジャリー企業は、このサイクルにおけるFTXといえる。違いは、彼らはより雄弁で、より洗練され、より見栄えのよい“バンクマン=フリードたち”に率いられており、いまや、有罪判決を受け25年の刑に服している“本家”が夢みた以上の取引量を扱っている点である。
では質問しよう。法人の資産として保有されたビットコインが、なぜ突然、世界でもっとも流動性が高く、明白で、誰もが認める、その市場価格の2倍、3倍、あるいは10倍もの価値になりえるのか?
あなたの手で金融レバレッジをかけ、債務、優先株、普通株などを発行するとき、われわれのオレンジのコインはどんな魔法のような「価値変換」を遂げるというのか? サトシ・ナカモトの亡霊がかすかに囁く「クレジットバブルの波」という声が聞こえてくる。
ビットコイン・トレジャリー企業は、けっしてサトシ・ナカモトが思い描いたものではない。サトシは、第三者の金融仲介者を不要とする新しい電子現金システムを創ったのだ。その発明からわずか16年で、われわれはサトシが脱出しようとした、まさにそのシステムを再構築してしまった。
わかった、いいだろう。こうした企業は成長しているし、株価というものは将来を織り込んで動くものだ。わかった、いいだろう。規制の抜け道も多く存在する。私は現実を見ていないわけではない。支払われた価格も、調達された資金も、ほかの観察者と同じように見えている。そして、市場価格が私には見えていない何かを知っている可能性を喜んで受け入れる。だが、それと同時に、最近懐疑派に加わったビットコイン分析家のジェームズ・チェック氏の次の指摘が正しいのではないかという、嫌な予感が拭えないのだ。
「私は、多くの(おそらくは大多数の)トレジャリー企業が、時が経つにつれてシットコイン界隈と同じ運命をたどるのではないかと疑っている。生き残る企業もわずかにあるだろうが、大半は現物ビットコインに対して劣後する運命にあると思う」
数週間前、ポッドキャスト番組「MSTR True North」のインタビューでジェフ・ウォルトン氏が以下のように語った。ちなみに、この番組はストラテジー社のビットコイン・トレジャリー戦略を分析・解説するものだ。
BRITISH HODL「で、ストラテジーが支払っている配当金は、どうやって資金調達されているのか?」
ウォルトン氏「理論的には、これらの金融商品のいずれかを現金化(ATM)して、他の金融商品の配当に充てることができるだろう……それは実質的に負債の借り換えと同じだ」
諸君、これこそポンジ・スキームの定義である。もし、あなたの推進する事業の価値が上昇し続けるためには、新たな資金が流入して古い資金を支払う必要があるのなら……そう、それはポンジ・ビジネスにほかならない。うまくいくことを祈ろうではないか(エミル・サンドステット氏が必読論文「Rise and Future Fall of MicroStrategy(マイクロストラテジーの隆盛と来るべき崩壊)」に記した言葉を借りれば、「ビットコイン・イールドの流れが生じるところにアービトラージが創出される」のだ)。
これは、ウォルトン氏個人を特別に批判するものではない。神のみぞ知ることだが、今年公開された「フィナンシャル・タイムズ」フィルム製作のマイケル・セイラー氏に関するかなり気まずい雰囲気のドキュメンタリー番組で、彼は “マダム・トゥース(辛辣な女性ジャーナリスト)”によってすでに十分に苦しめられている(それに、私はストラテジーのプロダクツの複雑な仕組みを理解するために、ウォルトン氏の説明を何十時間も聞いてきたのだから、むしろ彼には深く感謝している)。
一方、アンソニー・ポンプリアーノ氏の言葉もある。先日発表したProCap Financial社とのSPAC合併に際して、彼は、ビットコイン・トレジャリー企業のトレンドについて「バブルが形成されるのには理由がある。なぜなら、そのトレンドが機能しているからだ」と述べた。
私はポンジ・ビジネスをやっている。そして、ビジネスは好調だ……。
あの「フィナンシャル・タイムズ」のドキュメンタリーで、セイラー氏が修辞的に「マイケル、君は金融工学者だ」と叫ぶ場面がある。そして自らこう答える、「その通り、私はそうだ!」。
そして、公平にいって、もし資本市場への特権的アクセスとマーケット純資産価値(mNAV)が1以上という、いわば「マネープリンター(資金印刷機)」を手にした状況におかれたならば、われわれの多くは、セイラー氏たちがやっていることをまさにそのまま実行するに違いない。ベイリー氏が曰く、「もし1ドルを1ドル以上で売れるのなら、その取引を一日中繰り返すのが当然だ」。
(ディラン・ルクレール「投資家が求めているものは何か? もっと多くのビットコインだ。われわれメタプラネットが何をするのか? 彼らにもっとビットコインを提供する!」——2025年5月27日、「Bitcoin 2025」にて)
少しも不思議ではない。本当に驚くべき点は、ウォール街の資本——地球上でもっともアービトラージに飢えた、そして貪欲な利益追求者たち——が、法人格に包まれたビットコインであれば1BTCあたり18万3000ドルから200万ドルで喜んで購入するのに、実物のビットコインについてはわずか10万2000ドルしか払おうとしないことだ。
仮に「株式 → ビットコイン → ATM(市場価格での)優先株式発行 → さらにビットコイン」という無限回転するフライホイールの構造が実際に機能するとしても、そして、次なるトレジャリー企業が従来よりも高い「トルク(回転力)」をもっていたとしても、なぜ、いわゆる「投資家」たちはその株式を保有し続けようとするのか?…… いや、「投資家」ではなく「バグホルダー(高値掴みの被害者)」と呼ぶべきか。さっさとその株を、次の「何も知らない犠牲者」に売りつけてしまい、つい最近どこかの有名なビットコイナーが役員に加わったばかりの新たなスキームへと乗り換えればよいだけではないか。
1720年に彼らが政府債務でバブルをつくり出せたのなら、2025年のわれわれは、転換社債でバブルをつくり出し、ビットコイン担保の企業株式を金融市場全体にバラ撒くこともできる。もしかすると、今回ばかりは本当に違うのかもしれない。攻撃的な資金調達を行ない、金融錬金術を売り込むこれらの企業は、投資家に向けて次々と債務を発行しながら自滅することなく生き残るのかもしれない。もしかすると、これが最終的な投機的攻撃となり、法定通貨体制に終止符を打つのかもしれない。
「こうしたトレジャリー企業が、これまでビットコインに入ってこなかったであろう巨大な資本プールを取り込めるのは、実に素晴らしいことだ」と、ステファン・リヴェラ氏は冷静にみている。
if you ignore the biggest arb of the century, the capital reallocation will leave you behind. it’s not really a choice. #bitcoin
— Adam Back (@adam3us) June 15, 2025
子どもは夢をみることができる。
もし私が間違っていて、この「債券からビットコインへと資本の流れを加速させるポンプ装置」がハイパービットコイナイゼーションを加速させることになれば、私は誰よりも早くそれを祝福するだろう。だがその時が来るまでに、ぜひ、世界中の愛すべき金融エンジニア諸君に教えてもらいたい。できれば5歳児でもわかるように……。なぜ、これらの抜け目のない金融トリックが単に破綻へと向かうものではないのかを、ぜひ教えてもらいたい。
金融であれ、ほかのものであれ、永久機関は機能しない。では、なぜ今回だけは違うといえるのか?
※本記事は、寄稿者によるコラム「Take」です。記事内に述べられた意見は、完全に筆者個人のものであり、BTC IncやBitcoin Magazineの見解を必ずしも反映するものではありません。