10月22日(米国時間)、ブロックチェーン協会は米議会の上院および下院の指導部に書簡を送り、超党派によるデジタル資産税制法案を可決するよう求めた。これは、先月上院でCLARITY法案が否決されて以来、同協会が税制問題について幅広く働きかける初めての本格的な取り組みとなる。
政策担当最高責任者のリンジー・フレイザー氏が署名し、上院多数党院内総務のジョン・スーン議員(共和党/サウスダコタ州)、上院少数党院内総務のチャック・シューマー議員(民主党/ニューヨーク州)、下院議長のマイク・ジョンソン議員(共和党/ルイジアナ州)、下院少数党院内総務のハキーム・ジェフリーズ議員(民主党/ニューヨーク州)に宛てられたこの書簡は、デジタル資産を保有する6700万人の米国人に適用される規則について、「別の時代に向けてつくられたものだ」と主張している。
ブロックチェーン協会はこの書簡に合わせて、一般の有権者が選出議員に連絡できるようにするための新たなウェブサイト、TaxClarityforAmerica.comも開設した。
今回の要請の内容は、これまで暗号資産の税制をめぐる議論を追ってきた人々にとってはおなじみのものだ。少額取引に対するデ・ミニミス(少額免税)措置、ステーブルコインの現金と同等の税務上の取り扱い、マイニングおよびステーキング報酬への課税時点を受領時ではなく売却時とすること、顧客資産を保管する企業に限定したブローカー報告義務、そして、日常的な取引まで対象にすることなく、損失を利用した節税を防ぐウォッシュセール規則の導入である。
この書簡はさらに、米国の取引所を利用する外国人トレーダー向けのセーフハーバー(安全港)措置、時価評価課税方式を選択できる制度、ブロックチェーン開発を研究開発(R&D)税額控除の対象とすることも求めている。一方で、この書簡には特定法案への支持表明が欠けている。現在、多少なりとも成立に向けた動きがある法案はふたつあるが、同協会はいずれの法案にも言及していない。
米国税制法案の 現状
先に動いたのは下院だ。CLARITY法案が上院で否決された翌日、下院歳入委員会はジェイソン・スミス委員長(共和党/ミズーリ州)が提出した全114ページの法案パッケージ「デジタル資産税制確実性法案(H.R. 10357)」を承認した。この法案は、10ドル未満のネットワーク手数料についてキャピタルゲインの報告義務を免除する。ただし、前年に5000回を超える送金を行なった納税者は対象外となる。また、ウォッシュセール規則とみなし売却規則をデジタル資産にも適用する。適格なドル連動型ステーブルコインは、ウォッシュセール規則の適用を免除される。
しかし、この法案パッケージには、業界がもっとも強く求めていた条項が盛り込まれなかった。マイク・キャリー議員(共和党/オハイオ州)が提出した「マイニングおよびステーキングに関する税制明確化法案(H.R. 9175)」は、マイナーやステーキング参加者が資産を売却するまで課税を繰り延べられるようにするものだった。この法案は初期の討議用草案には含まれていたが、9月14日に委員会が公表した法案本文からは削除されていた。その代わり、この法案ではバリデーション報酬を通常の所得に分類し、受領時に課税することとしている。課税の繰り延べ期間に5年間の上限を設ける案を提案していたスティーブン・ホースフォード議員(民主党/ネバダ州)は、この法案パッケージに賛成票を投じ、引き続き検討を進める余地は残されていると語った。
ブロックチェーン協会、Crypto Council for Innovation(クリプト・カウンシル・フォー・イノベーション)、The Digital Chamber(デジタル・チャンバー)は6月、同委員会に対して、この法案を修正を加えずに可決するよう求めていた。しかし、委員会はそれとは正反対の対応をとった。
一方、上院も独自の法案を提出している。スティーブ・デインズ議員(共和党/モンタナ州)は9月30日、シンシア・ルミス議員(共和党/ワイオミング州)、バーニー・モレノ議員(共和党/オハイオ州)、ティム・スコット議員(共和党/サウスカロライナ州)を共同提案者として、ADAPT法案を提出した。この法案は、GENIUS法に基づくステーブルコインを使った購入について、利益または損失の計上を免除する。また、手数料に対して同じ10ドルの基準額を設け、既存の保有資産については経過措置を適用したうえでウォッシュセール規則を導入し、マイニングおよびステーキング報酬については適用を免除する。現在、この法案は委員会に付託されたままとなっている。
ルミス議員がそれ以前に提出した法案S.2207は、一取引当たり300ドルのデ・ミニミス措置を設け、年間の免税上限を5000ドルとするものだ。2025年6月以来、この法案は財政委員会に付託されたままとなっている。
上下両院のいずれの法案にも、ビットコイン業界がカンファレンス「Bitcoin 2026」で中心的な提案として掲げた少額のビットコイン購入に対する免税措置は含まれていない。下院法案の10ドルという免除基準額は手数料にのみ適用されるものであり、購入そのものには適用されない。上院法案の支出に関する免税措置はステーブルコインを対象としており、ビットコインは対象外である。
The Bitcoin Policy Institute(ビットコイン政策研究所)などは、デ・ミニミス規則はビットコインにも適用されるべきだと主張してきた。10月22日に発表された書簡でも、具体的な金額は示さないまま、「実質的な」免税措置を設けるよう求めている。
タイミングが 悪すぎた
米議会は11月3日の中間選挙が終わるまで休会となっている。議員たちが議会に戻ってきても、残されているのは数週間程度のレームダック・セッション(任期満了前の議会)に過ぎない。その短い間で、暗号資産の税制改革は、政府予算の確保や、第119議会の会期終了までに議会指導部が成立させようと決めたその他の案件と、優先順位を争うことになる。
デジタル資産税制について上院でもっとも積極的に発言してきたルミス議員は、2027年1月に引退する。
CLARITY法案の頓挫が、こうした状況全体を左右している。この市場構造法案は2025年7月に下院で294対134の賛成多数で可決されたが、その後、銀行業界のロビー団体がステーブルコインの利回りをめぐって暗号資産業界と対立し、民主党議員らがトランプ・ファミリーの暗号資産事業を標的とした倫理規定の導入を強く求めるなか、上院では1年以上にわたって審議が停滞した。
9月15日に行なわれたクローチャー(審議打ち切り)動議の採決は、賛成49票、反対50票で否決された。民主党議員から賛成に回った者はおらず、共和党のスーザン・コリンズ(共和党/メーン州)、ジョシュ・ホーリー(共和党/ミズーリ州)、ジェリー・モラン(共和党/カンザス州)の各議員は反対票を投じた。トム・ティリス議員(共和党/ノースカロライナ州)は、再審議の動議を提出できるようにするため、自らの投票を反対に切り替えた。これにより、法案は形式上は存続しているものの、実質的な意味はほとんどない。
市場構造法案が議題から外れたことで、暗号資産業界は成立の可能性がある案件へとロビー活動の重点を移した。その有力候補が税制改革だ。下院の法案パッケージは超党派の賛成票を得て委員会を通過しており、ウォッシュセールに関する条項は税収増につながるため、税制立案者がそれをより大きな法案に盛り込む動機にもなる。10月22日、連邦議会の動向に詳しいニュースメディア「Punchbowl News」は、ブロックチェーン協会が上下院どちらの法案も支持しなかったことは、暗号資産業界が議会に対してこれまで以上の成果を求めていることを示していると報じた。
その間も、規制当局が法整備の空白を埋め続けている。10月21日、米通貨監督庁(OCC)はGENIUS法に関する最終規則を発表した。また、米証券取引委員会(SEC)と米商品先物取引委員会(CFTC)は、法律が制定されていないなか、規則制定や法執行を通じて市場構造に関する政策を策定してきた。





