ストラテジー社(MSTR)は先週(2026年7月20日から26日)、優先株STRCの市場買い付けによる買い戻しを開始し、28万8,930株を平均86.52ドル、総額約2,500万ドルで取得した。注目されるのは、同社がこの間ビットコインを購入せず、現金準備の積み増しを続けたことだ。
では、ここで何が起きているのか。最大のビットコイントレジャリー企業が、自社の負債性商品を買い戻しているのはなぜか。
背景
2026年6月、STRCは額面100ドルを大きく下回る水準まで下落した。何が起きたのかについては、以下の2本の記事で詳しく分析している。
- Crash Post Mortem – What Happened to STRC in June 2026(2026年6月、STRCに何が起きたのか)
- The Sixth Lever(第6のレバー)
先週のSTRC買い戻しは、6月のボラティリティを受けて6月29日に発表された「デジタル・クレジット資本フレームワーク」に沿ったものだ。同フレームワークは、STRC、STRF、STRD、STRKを対象に最大10億ドルの買い戻しを承認している。STRCが現在は同社の主力商品と位置付けられているとみられることから、買い戻しの当初の優先対象にはSTRCが指定された。
買い戻しの論理は、資本構成におけるMSTR普通株の位置から出発する。普通株は、優先されるすべての請求権が満たされた後に残る価値を保有する。ストラテジーのビットコインと現金は流動資産であり、負債と優先株はMSTRに先行する。同社のUSDリザーブ(要するに現金)は、そうしたシニア請求権の一部を相殺する。したがって普通株は、ビットコイン準備から負債と優先株を差し引き、利用可能な現金を戻した後に残る価値を表すことになる。
これは実質的に、ストラテジーが最近導入した「1株当たり純ビットコイン(Net Bitcoin Per Share)」という指標そのものである。現在の算定方法では、ビットコイン保有量から、アウト・オブ・ザ・マネーの転換社債、その他の負債性商品、発行済みの永久優先株のビットコイン換算額を差し引き、そこにUSDリザーブを戻して純ビットコイン(Net BTC)を算出する。この説明が前の段落とまったく同じであることに注意したい。
純ビットコインを完全希薄化後の普通株式数で割ったものが、1株当たり純ビットコイン(Net BPS)となる。同社の開示では、改定後のmNAV算定方法の区切りは7月23日とされており、新方式はNet BPSを分母に用いる。
この指標により、MSTRの投資家は、シニア請求権を差し引いた後に普通株へ経済的に帰属するビットコインを直接把握できる。1株当たりビットコイン(グロス)は、ストラテジーがビットコイン購入のために優先株や負債を追加発行した場合にも上昇し得る。1株当たり純ビットコインは、そのビットコイン購入と同時に生じた負債を捉え、資本構成上より優先される投資家への支払いを終えた後、普通株主にどれだけのビットコインが残るのかという問いに答える。
したがってNet BPSは、資本市場取引がMSTRにとって1株当たりの価値を高める方向(増価)に働くのか、希薄化の方向に働くのかを測る枠組みを提供する。すでに使われている既存の指標と並んで投資家が評価し得る、もう一つの新しい指標と考えればよい。
では、なぜSTRCの買い戻しなのか
答えは、額面を下回る価格で負債性の請求権を消却することが、純ビットコインベースでは増価要因になるためだ。
基本的な仕組みを理解するために、単純な数字のバランスシートを考えてみる。
ある企業が1億ドル分のビットコインを保有し、5,000万ドルのシニア負債を抱えているとする。このとき普通株は、5,000万ドルの残余請求権となる。
資産1億ドル − 負債5,000万ドル = 株主資本5,000万ドル
次に、この5,000万ドルの負債を4,000万ドルで消却できるとする。資産のうち4,000万ドルを使うため、残る資産は6,000万ドル、負債はゼロになる。普通株の残余は5,000万ドルから6,000万ドルへ増える。
資産6,000万ドル − 負債0ドル = 株主資本6,000万ドル
株主資本の請求権は5,000万ドルから6,000万ドルになった。つまり、5,000万ドルの請求権を消すために4,000万ドルを支出することで、残余の所有者である普通株主に1,000万ドルの価値が生まれる。
STRCの買い戻しも同じ構造だ。ストラテジーは、額面100ドルの証券を平均86.52ドルで消却した。買い戻した1株ごとに、同社の純ビットコイン算定に用いる優先株の請求権は100ドル減る一方、消費する資本は86.52ドルにとどまる。この13.48ドルの差が、MSTRに対するグロスの増価を生む。
ストラテジーは、公表された平均価格に基づけば、STRCの額面ベースで2,889万3,000ドル分を約2,499万8,000ドルで消却した。差額は約389万5,000ドルとなり、この価値はMSTRに帰属する。
(あわせて指摘しておくと、STRCの現在の年率配当率12%もこれに関係する。額面ベースで2,889万3,000ドル分のSTRCを消却すれば、年間の配当負担も約347万ドル減ることになる。さらに、STRCは依然として100ドルを大きく下回っているため、同社は配当率を引き上げる可能性が高く、実際に削減される年間の配当費用はこれより大きくなるとみられる。)
結論
純ビットコインは、前に立つシニア負債をすべて考慮したうえで、普通株が保有する残余のビットコインを示す。STRCの買い戻しは、同社の1株当たり純ビットコイン指標を改善するための財務エンジニアリングの一手である。
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